クールな社長の耽溺ジェラシー
「あの……そんなに返事がおかしかったですか?」
「いや、悪い。“高塔”って感じじゃないと思っただけだ」
「笑ったことよりそっちを謝ってください」
これでも小柄なのを気にしている。仕事の現場で背伸びしても届かない電球に出会うたび、もう少し背が高ければと悔しい思いばかりしている。
思わずつっこんでしまったけれど、いやな顔はされなかった。
「名前、小夏だったよな?」
「そ、そうですけど」
「小夏も適当に呼んでくれたらいい。同じポジションなのに、社長なんて呼ばれたら仕事がやりにくいから」
「同じポジションって……」
とんでもない。新野社長はリーダーで私はただのアシスタントのようなポジションだから明らかに違う。
とはいえ、これから数ヶ月間プロジェクトを一緒に進めていくのに“社長”なんて呼び続けるのは堅苦しい気もしていた。なので、その気遣いはありがたかった。
「では、新野さん……と呼ばせてもらいます」
「ああ、そのほうがいいな」
満足そうにうなずく。その表情は真顔なのに、どこか優しく見えた。
正司さんがさきに会議室を出ると、私と広瀬さんで新野さんを下まで送ることにした。
大きな会議が行われることが多いフロアなため、廊下は静まり返っている。タイルカーペットで足音は立たないけれど、歩くだけでも少し気を使った。
「見送りはいい。エントランスくらい覚えてる」
エレベーターの前まで来ると、新野さんが私と広瀬さんを見てくる。
「まぁまぁ、これも俺らの仕事ですから」
広瀬さんはへらっと笑うと、エレベーターのボタンを操作した。
「それより新野さん、今回のコンセプトってもう掴めてます?」
「まぁ……だいたい。けど、それは次の打ち合わせで話し合うんだろ」
エレベーターが到着すると、広瀬さんがドアを押さえてくれたので新野さんに次いで乗り込む。私の頭の中はさっきからぐるぐるとコンセプトが回っていた。