クールな社長の耽溺ジェラシー
「俺も正直、こういう店に好んで食べにこない。けど……小夏となら来たいと思ったんだ」
ほぼ真顔の新野さんがときおり見せる笑顔は優しくて温かくて、とにかくすごい破壊力を秘めている。あまり見ていられなくてうつむいた。胸の奥が落ち着かない。
「新野さん、なんかずるいです。急に人が変わったみたい……」
出会ったときは、こんなに情熱的に想いを伝えてくる人だなんて考えられなかった。
「俺が変わったっていうなら、そうさせたのは小夏だろ」
頬をフッと綻ばせた笑みは余裕たっぷりで、大人の男だと見せつけられているようだった。
気持ちを落ち着けようとワインを飲むと、少し肩の力が抜けた気がした。
「……私、正司さんのパクリ、ショックでした」
なんの脈絡もなかったけれど、新野さんは黙って聞いてくれていた。
「あの人がそんなことするはずない、って思いましたし……でも、なにより正司さんが自分の力を自分で認めていなかったことがショックでした」
「小夏……」
新野さんの手が止まる。
「いまの会社に入ってから、正司さんの昔の作品も見ました。美術館をする前は地味って言われてたんですよね。でも、それも全部すごかったです。
あれだけきっちりした計算の上に成り立つデザインは簡単にできるものじゃありません。誰が見ても馴染む照明なんです、だから地味って言われるだけなんです」
「ああ、知ってる」
新野さんは穏やかにうなずくと、ナイフとフォークを皿の上に置いた。
「正司さんの仕事を間近で見てきたんだ、すごさぐらい知ってる」
口先だけじゃない、心からの言葉だった。正司さんのすごさをちゃんとわかってくれていることに安心する。新野さんは正司さんを軽蔑しているわけじゃない。
だからなおさら、どこかで見直してもらいたかった。
「正司さんにも橋のライトアップ、設計してもらいたかったな……」
つぶやくと、新野さんは目を丸くした。
「その話、受けるんじゃなかったのか?」
「それが、断ったって広瀬さんから聞いたんです」
「断った……?」
新野さんは手を止めまたまま、しばらく考え込んでいた。