クールな社長の耽溺ジェラシー


「やばい……っ」

スーツに身を包んだ人々の間を、息を切らしながら走り抜ける。

打ち合わせが長引いて現場に入るのが遅れた。

必要な機材やヘルメットを抱えて現場へ向かっていると、胸ポケットに入れていたスマホから着信音が聞こえた。表示されている名前は広瀬さんだ。

「はい、高塔です」
≪あ、こなっちゃん? お疲れ。悪いんだけど、いまトラブっててさぁ、今日そっち行けそうにないわ≫

広瀬さんの声は参っていて、さらにそのうしろで管理部と施工部の言い争っている声が聞こえてくる。

「わかりました! 私もいま着いたところで……」
≪え、そうなの? まぁ、かわりに正司さんに行ってもらってるから、大丈夫だと思う。それじゃ≫

プツッと音が切れると、私は一気に不安になってきた。

今日は新野さんと広瀬さん、私の三人で現場を確認する予定となっていた。それがいまはあのふたりだけだなんて。

恐る恐る、まちなかライトアップのメインの場所へ向かう。今日はその周辺の確認だった。

ふたりとも背が高いから、遠くからでも作業している姿がわかる。

ゆっくり近づくと、話し声が聞こえてきた。

「正司さん……橋のライトアップ、受けてください」

新野さんが真剣な眼差しで正司さんに訴えかけている。

思いもよらぬ内容にぎょっとして、私は慌てて建物の陰に隠れて息を潜めた。

ふたりを背にしたまま、耳だけ澄ます。なんとなく、立ち入ってはいけない気がした。


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