クールな社長の耽溺ジェラシー
五章:
新野さんがなんのために頭をさげているのか――。
理由がわかるから、胸が苦しい。
「初めて見たな、新野くんの……そんな顔」
顔をあげた新野さんを見て、正司さんは意外なものを見るように目を見張った。
「僕がきみの作品をマネたときでさえ、きみは無関心そうにしていたのに」
「……はらわたが煮えくり返ってましたけどね」
正司さんから視線を逸らした新野さんは、蘇った怒りを抑えているのか、拳を握りしめていた。
「へぇ、そうだったんだ、表情に出てなかったから全然わからなかったよ。怒りもしない、ショックも受けていない……ああ、僕のことを普段から見下していたんだろうな……って、そう思ってた。
……だからいま、勝負を申し込まれて戸惑ってるよ。きみに対等に見てもらえたんだって……喜んでる自分がいるんだ」
風が吹き、正司さんの前髪が乱れると潜めた眉が見えた。
「あのことがあるまでは見下していませんでした。むしろ尊敬していましたし、あのときも正司さんがそんなことするなんて信じられなくて、そうやって名前を取られることもあるのかなって、自分に言い聞かせていました」
新野さんが苦しげに言葉を詰まらせると、正司さんも切なそうにまぶたを伏せた。
「けど、それから何度もあったから、さすがに信用できなくなって……自分から去ることを選びました。
会社にこだわっていたわけじゃないけど、やめたかったわけでもない。でも、あのまま続けていたら、この仕事さえも続けていられなくなっていた」
設計を盗られたのは一度だけじゃない。初めて聞く事実にショックでたまらなかった。