クールな社長の耽溺ジェラシー
美術館以降、正司さんの作風が変わったと感じていた。瀬那さんも『ふたりはセンスが似てる』と言っていたけれど、それは新野さんの作品が元だったからなんだ。
だから、野心も野望もない新野さんが独立した。ショックと、つらさと理不尽さに耐えきれず……。
広瀬さんに会ったとき『まだ続けてるんだな』と声をかけたのは心配だったからだ。
「あのときは諦めて、正司さんに抗議もしなかったけど……でも、今回は諦められないんです」
真正面に立った正司さんを新野さんがじっと見つめる。
その視線に耐えられなくなった正司さんは視線を逸らすと、私が隠れている建物のほうを見たので、慌てて身を潜めた。
「今回は……か。そうだね、高塔さんにはいい機会かもしれない。そろそろ僕から離れてもらったほうがいいかな」
再び自分の名前が出て、身を隠しているはずなのに、もっとどこかに隠れたくなる。
「じゃあ、橋のライトアップを……」
「受けるとは言ってないよ。少し考えさせてもらおうかな」
様子をうかがいながらふたりを見ると、正司さんはにっこりと人の悪い笑みを浮かべ、新野さんはただ立ち尽くしているようだった。
私はさすがにこれ以上遅れて合流するわけにもいかず、タイミングを見計らって現場へ現れた。
ふたりのやりとりを聞いていただけに気まずかったけれど、たぶんいつも通りの顔ができていたと思う。