クールな社長の耽溺ジェラシー


「影、気をつけて隠れたほうがいいよ。まぁ、新野くんから見えてなかったと思うけど」

優しく瞳を細められ、居心地が悪くなった。影は自分の足元から正司さんに向かって、情けなくだらりと伸びている。

「す、すみません……」
「いつから聞いてたの? まさか……最初から?」
「たぶん、最初から……。正司さんの過去の話も、聞きました。……すみません」

語尾を小さくしながら謝ると、隣を歩いていた正司さんは立ち止った。

「正司さん……」

声をかけるけれど正司さんはなにを見ているのか、なにも見ていないのか、放心状態でただ立ち尽くしている。

「あ……ごめん。……そっか、知られちゃったんだね」

ぽつりと寂しげに呟き、足元に視線を落とした。その姿がとても小さく見えて、なぜだか私が泣きたくなった。

「最低なことをしておいてなんだけど、高塔さんには知られたくなかったな」
「それは私をゴーストライターにする予定だったからですか?」

たずねる声が震え、胸が切り裂かれるように痛んだ。

「……違うよ。ずっと、きみの憧れでいたかったんだ。誰かに尊敬されるのが心地よかった。結局、それは盗作をした自分に向けられている憧れだったっていうのにね」

父親をプレッシャーに感じて犯してしまった罪。

しかし、そのあとも自分と向き合えず同じことを繰り返していたのは、周りの期待や、私のようにただひたすら彼に憧れる後輩たちからもプレッシャーを感じていたのかもしれない。

「本当にバカなことしたな」

オレンジから紺色に染まっていく空を見上げた正司さんは、どこか吹っ切れたようでもあった。


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