ダブル~私が選ぶのはどっち~
「さて…、琴乃、ゆっくり話そうか。」

久しぶりにこの声に下の名前を呼ばれた。

私はくるりと草野主任の方を振り返る。

「…どうして俺に内緒で転勤願いを出していたんだ?」

草野主任は私の顔を眺める。

しかし私は特に言葉を発しない。

「俺がプロポーズした途端に転勤が決まるなんて、信じられないよ。」

草野主任のあの笑い声をこんな所で聞くなんて。

「俺が泊っている部屋で話そう。」

私はうっすらとうなずくと、草野主任の後をついていく。

すると急に草野主任は立ち止まり、私を引き寄せる。

「琴乃はずるい。返事もせずに姿を消してしまうなんて。」

そして私にキスを落とした。

私の中に懐かしい思いがこみ上げる。

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