ダブル~私が選ぶのはどっち~
草野主任は少し赤くなったような気がする。

「見合いの初めての席で、琴乃の事を全部話したんだ。相手が引いても良いって、少しヤケになって洗いざらい話した。」

草野主任は空を仰いだ。

「それを全部受け止めるから、ちゃんと一からお付き合いを始めましょうって言われた。…その言い方が…。」

草野主任は私に視線を合わせた。

「琴乃と重なった。」

私達のそばに、電車が入って来て草野主任の声をかき消す。

「俺にちゃんと向き合おうって気持ちがすごく嬉しかったんだ…。」

そう聞こえたような気がする。

すると草野主任は私に手を差し出した。

「もう一度ちゃんと別れよう。」

草野主任が本社転勤で最後にした握手。

私はその手をまたぎゅっと握る。

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