ダブル~私が選ぶのはどっち~
「俺のデスクからは琴乃に集中する視線がもろ見えて、ハラハラする。」

「何を言っているんですか。」

私は溜息をつく。

「草野主任もそんな事ばかり眺めていないで、仕事をちゃんとして下さい。」

「だって…、仕方ないだろう。つい琴乃の事を見てしまうんだから。」

私は頬杖をついて、まじまじと草野主任の顔を見た。

「30歳になった大人がなに馬鹿な事を言っているんですか。」

そして私は立ち上がった。

「では、失礼します。」

すると草野主任は私の背中に向かって声を掛けた。

「今日はいつもの所で待っているから。何時になっても良い。」

私は振り返りもせずに、手を上げた。

「気が向いたら行きます。」

私はデスクに戻ると、自分のデスクで猛然とパソコンのキーボードをたたいている矢田君を見た。

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