ダブル~私が選ぶのはどっち~
「私より早く来ていたのに、ずっとあの調子なの。」

いつもの爽やかな出来る男とはちょっと違う。

「絶対琴乃がらみでしょう。」

ちょっと困ったような表情を和華が見せる。

「またゆっくり話すよ。」

私は苦笑いをしてデスクに座った。

すると草野主任は初めて私の事に気が付いたようだ。

表情をスッと変えると、私のデスクにやって来た。

「吉川、すまない。会議室に来てくれるか。」

何とも言えない複雑な顔をしている草野主任。

「はい。」

私はいつもの表情を崩さない。

「矢田君、昨日の続きを進めておいて。レポートはほぼ合格。また詳しい説明は後でするから。」

私は指導係としての指示をすると、草野主任より先に会議室に向かう。

何気に慎とすれ違った。

その時、慎が私に囁いた。

「別れ話ですか?」

私は一瞬顔をこわばらせた。

そして無言で慎をすり抜けていく。

会議室に入ると、草野主任を座って待つ。

「琴乃。」

私は草野主任を見上げた。

「どうして琴乃は俺が近づこうとすると逃げてしまうんだ?」

「草野主任がルールを破るからです。」

私は机の上で手を組む。

「しばらく時間を空けませんか?」

私はポツリと言った。

「もう俺に抱かれたくないってことか?」

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