ダブル～私が選ぶのはどっち～

「また口説かれているんですか？」

矢田君は私のメモに目を留めた。

「何を言っているのよ。さっさと乗りなさい。」

新入社員にはしばらくは社用車を運転させない事がうちの会社の決まりなので、私は運転席に乗り込む。

「よろしくお願いします。」

さっきとは違い、神妙な顔つきで矢田君は助手席に座った。

「吉川さんは草野主任の事をどう思っているんですか？」

車が走り出すなり、そんなぶしつけな質問をしてくる矢田君。

「それが仕事と何か関係があるの？」

私はイラッとした表情を隠しもせず、矢田君に聞く。

「仕事には関係はありませんが、俺個人にはとても気になります。」

私は運転に集中するために、しっかり前を見据える。

「俺、仕事に対する吉川さんの姿勢にすごく勉強させてもらっています。でも…。」