ダブル~私が選ぶのはどっち~
こう呼ぶのは私の周りでは慎だけだ。

慎は私が家庭教師をしていた時から、決して先生とは呼ばなかった。

初めは照れくさかったけれど、慣れてくると私の耳には心地良く聞こえた。

「琴乃さん、待った?」

今度は生の声で私の名前が呼ばれた。

「お疲れだね、慎。」

私は振り返って慎に笑いかける。

「あっ…。」

私はいつもと違うスーツ姿の慎に気を取られた。

会社では毎日その姿を見ているはずなのに、二人でこの姿で会うのは初めてだ。

「どうしたの?琴乃さん。」

慎はそんな私の様子に不思議そうな顔をする。

「大人になったね~、慎。見違えちゃった。」

私は思った事を口にする。

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