相沢!ベッピン鉄拳GIRL
交渉決裂、独断決行!
マサミが飾り付きのワゴンに紅茶と菓子を
乗せて来た。慣れた手つきで、茶を淹れる。
応接間も彫刻や観葉植物だらけ。

岩佐はソファにふんぞりかえっていた。
多分、こういうのが日常なんだろう。

「なあ岩佐、お前大学は?」
京子さんが聞く。

「あー、行ってねえ。何か面白くなくなっ
ちまって。サボり」
クシャクシャと頭を掻きながら答える岩佐。

「何?お前、ボンボンなの?何?その勝手さ」
と、俺。親の顔見てえ。

「そうっ。俺はボンボンだ!大手総合建設会
社の社長の長男。いずれ社長様」
しれっと言う岩佐。

「何故、マサミ君は日延ヶ丘高校じゃなく、
ウチ、貴塚ヶ原高校へ?」
京子さんが聞く。

「ヤなんだよ、俺が。OBとして顔が利いてる
うちに、あんなみすぼらしい奴が身内として
入るのは。それを言ったら、親父が適当に
選んだらしい」

全く岩佐らしい理由だと思う。
「超、心せまっ。ってか、変わってねえなあ
お前。ホント小さいヤツ。帰ろう、京子さん」
もう、コイツと話はゲンナリ。

京子さんはマサミから紅茶を受けとりながら、
「アンタもこっち座って」
と、マサミに呼びかけた。そして、

「なあ岩佐、この子しばらくアタシが預りたいんだが。貴塚ヶ原の格闘系の部活で」
京子さんはこれが本題とばかりに真剣。

「あア?マサミが格闘部?無理じゃねえ?」
バカにしたように笑う岩佐。
「技とか、ルールとか教えるだけムダだって」

かまわず話を続ける京子さん。
「その際に、道着とか、合宿とかで料金が
発生するかもなんだけど、出してやって欲しい
んだ」

「はア?ヤだね。コイツが来てから、ちょく
ちょく金が消える。くすねてやがるんだ。
ただでさえ穀潰しが、まだ金食うのかよ」

やっぱり。知ってた。見て見ぬ振りで、悪い事
重ねさせてた。

京子さんは、ニッコリ笑って岩佐を手招きする。
頬っぺたに手の平寄せて、ひそひそつぶやく。

「あア?聞こえねえ」
岩佐が耳を寄せてかがむ。




ゴッツ!!!

決まったーっっ!岩佐の顔面正面への、
京子さんのストレートパンチ。

岩佐は軽く仰け反った後、そのままガラステーブルに沈んだ。ガチャンと大きな音がして、
ティーカップがひっくり返り、菓子が飛び散った。

「ごめんだけど、後片付けヨロシク!」

かなり狼狽しているマサミに一言残して、
京子さんは玄関へ向かった。
岩佐は完全にのびている。
俺も席を立つ。

玄関から出ると、遠くから犬の声がした。

門を出る。京子さんに聞いた。
「あのマサミってヤツの面倒、見てやるつもりなんだ?どうしてまた……」

「んー、アタシもなんとなく親に、放置
食らってるじゃない?同情?かな?」

「京子さんのは、違うっしょ」

京子さんの家族には、まだ愛がある気がする。
「それより、耳うちするふりしてパンチとか、
京子さんのやり方も、けっこうえげつないす。
俺の事ばかり言うけ……」

「そうそう、明日の事なんだけどな……」
さらに、話題を変える京子さん。ちえっ。

「少しばかりあの子の相手、してやって」

別に、いいけど。
「アイツ、ついて来れっかなあ」

京子さんを見送って、
俺も、自分ん家に帰る。

ウチは、学生も会社員も労働者も多く来る食堂だ。
外から直接二階に上がる階段もあるけど、
俺は店ん中通るのが好き。

「ただいま」
店内の匂いは、焼きそばと豚カツ定食が
多く出た事を物語っていた。

「おう、おかえり。どうだった?」
親父が答え、そして聞いてくる。
目がキラキラしてる。まいったな……。

どうだった……って。
「うん、まあ。ボチボチ?」
よくわからない答えを言って、二階の
自分の部屋へ。

本棚から航空力学の本を取る。
今日、図書館で借りた本も開く。

「しばらく忙しくなるな」







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