相沢!ベッピン鉄拳GIRL
新入生歓迎会。
結局、仲原と河川敷で合流する事はなく、
飛行機の試験飛行が終わったらウチに寄って
くれるように電話した。

マサヨシは現在、俺んち、元気食堂「やひろ」
の奥のテーブル席で京子さんの隣に座り、んも
ぐっっったりしてる。

「あんなに動いた後で、食べたりしたら大体
吐きますよ。気分悪くなって……あと……」
マサヨシ、マサヨシ、それ、それ、

「飯食う時くらい、弱気発言やーめ!」
と、京子さん。同じ事考えてたみたい。

「親父ー!とりあえずビール!……じゃなくて
野菜ジュースな!」
調理場の親父に向かって、手を振る俺。

おう、と、返事があって、カウンターにグラス
が置かれる。そこへ注がれる、紫色の液体。

「貴塚ヶ原高校、運動部へようこそ。マサヨシ
の歓迎会ってことで、俺っちのおごりだから。
まず、乾杯な!」
カウンターから、グラスをゴンゴン持ってきた。

「これ……飲み物?」
何を飲まされるか、おびえるマサヨシ。

京子さんは乾杯、と、ぼそっと言ってすぐに
グラスをあおる。ぷはー、とか、言ってる。

マサヨシも恐る恐る口をつけ、
「あれ?結構、普通に美味しい」
そこへ運ばれてきたナムルの山の、取り分け
箸を真っ先に手に取る。

「うわー、これ、美味しい!」

解説しよう。今回のメニューは、親父の考えた
疲労回復のためのスペシャルコースなのだ。
これ目当てにウチに寄る労働者も多い。

食いだめのシマリスのようになったマサヨシの
隣で、京子さんは深いタメ息をついた。

進路希望、と、書かれた用紙を広げる。
「実は、カナダ行ってる父から手紙きた」

えっ?手紙?まさか呼ばれる訳じゃないよね?

京子さんは、封筒から写真を取り出して見せた。
インスタントカメラで撮られたらしい、
ピントの雑なものや、ポラロイドで撮って回りが
あまり写ってないもの。

「うわー、やっつけ仕事!でも、なんだか……」

「楽しそうだろ?」

写真の中の親父さんたちは、まるで夏休みの
小学生のように笑顔で、
森のなかで、
町のなかで、いろんな人たちと肩を組み、
ガッツポーズして、ブイサインかましてた。

「置いてった娘に、こんな写真送り付けるとか
信じられない。殺意をいだきたくなるな」

「でも、元気そうで良かったっすね、事件とか
巻き込まれたりして、路頭に迷ってなくて。
この写真見てたら、どういう人たちか解ります」
元気で、強運で、気さくで、誰でも仲良し。

「どうすっかなー、進路」

「俺も、京子さんと同じ大学、行きたいっす」

「竜、あんたはアタシと違って頭いいんだから
いいとこ行きなよ?」

親父やおふくろにも、似たようなこと言われた。
店の事は気にせず、やりたいことをやれ。

「俺は、将来は京子さんと暮らしたいっす。
それ考えたら、やっぱ、学歴あった方が
いいんすかねえ。会社とか、給料のいいとこ
行くとなると」

「悪かった。自分が先の事考えて無いのに
エラそうな事言って」

「二人で住むとしたら、3LDKは欲しいっす。
いや、頑張ってワンフロアのマンションとか、
子供とか走り回っても、大丈夫な感じの」

「……人の話聞けよ。悪かったって言ってるだ
ろ?」

「んで、たまに家族でこんな風に外食して」

「えっ、僕、子供役?」
マサヨシが、海鮮豆腐ハンバーグを喉に詰ま
らせながら言う。

「竜太、あんたは悩み事とかないだろー?」

「そんなことないっす」

京子さんは進路希望の紙に『主婦』と書いて
けしゴムで消し、

「似合わない」
と、つぶやいた。

仲原が、飛行機を抱えて入ってきた。

「おう、いらっしゃい」
親父が言う。

「おっちゃん、お久しぶり。
いつものよろしく」

そうだ、思い出した。俺だって、最初から
こんなに前向きだったわけじゃない。
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