治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
プロローグ~約束の場所~
「……大好きだよ、僕のリーゼ」
耳元をくすぐる優しいヴァリトンの声に、リーゼの胸がトクンと大きく鳴った。
ど……どうしよう……
騒ぎ出した心臓の音、聞こえちゃう……
そう思えるほど、彼との距離が近い。
なにしろ。
裾の長い純白のドレスを身にまとったリーゼは、今。
彼の胸に抱きかかえられるようにして、黒馬の前鞍に横座りしている。
ここで熱く紡がれる彼の想いを、リーゼはっきりと、聞いたのだ。
「君を愛している。
だから、僕の……僕だけの花嫁になって?」
あっ……ああ。
とうとう言われちゃった……
半分予想していた彼の言葉に、リーゼはそっと顔をあげた。
彼女の青い瞳に映ったのは、とても綺麗な男性(ひと)。
リーゼ自身も心から愛している人だ。
長く伸ばした黒髪が良く似合うくせに、重い感じはしない。
どこかさわやかで、顔は男らしく整っている。
黒い乗馬用マントでリーゼごと包み、気性の荒い黒馬を操るさまは、実に見事だ。
攻撃魔法を使う家系であるシュヴァルツシルト家に生まれながら、得意は剣技。
腰に差す黒い刃の魔法の剣、イーゴンを取ればグランツ王国で五本の指に入る彼の名は……
「……ラファエルさま……」
そう。
たった一言呟いただけで、リーゼの青い瞳から涙があふれ、辺りの景色がかすむ。
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