治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
「無理はしねぇよ。
 死んじまったら、リーゼと一緒に暮らせないからな」

「ラルフ…………!」

「そんな顔をすんじゃねぇよ。
 苦山は死んだ母の実家の近くなんだ」

 地の利はこちらにもあるし、どんな些細な小道も知ってる。

 本当に歯が立たなかったら逃げて帰って来られるし。
 いざとなったら、お前をさらってでも俺の花嫁にする。
 ……っと。
 でも、そうなったら優雅なお茶会はさせてやれねぇかも……」

 そう、顎を撫でるラルフに、リーゼはふるふると首を振った。

「いらない!
 わたし、ラルフが元気でいれば、他になにも要らないわ」

「……俺も、お前さえいればなにもいらない。
 出来る事なら、このままさらって行きたいぐらいだ。
 でも、幸せになれる可能性があるのに、好んで苦労することはない」

 未来の夫の腕を信じろ、と頼もしく拳を握って見せるラルフに、ようやくリーゼも笑顔を見せた。

 そんな、未来(さき)に見る、自分の理想をちらりと垣間見て、リーゼの心が踊りかけたその時だった。 

 地平の果てまで広がり一面の花々が咲き誇る大草原の、何処か一角から、高々と角笛の音が響いたのは。


 ルルルルルウォン~~

 ルルウォン~~ウォン~~


 ……時間だ。

 リーゼは、男装に身をやつし、ラルフは貴族の子弟『ラファエル』として、戦いの激戦区に赴かなくてはならない。

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