治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
 もたもたしていたら、互いの家の家来だの使用人だのが、それぞれの主人を探しに出てきてしまうかもしれない。

 リーゼの家と、ラルフの家の仲がかなり良くないことを考えると、家中の者同士がこの草原で出くわすことは、良くない。

 そんなことは、二人とも良く判っていた。

 リーゼは、最後の名残にラルフの首に腕をまわして、抱きしめた。

 ラルフは『心配するな』と言ってくれたけれども、リーゼは心配で心が張り裂けそうだった。

 ラルフも、そんなリーゼの心の痛みを癒すように儚く細い身体をぎゅっと抱きしめる。

「愛してるよ、リーゼ。この世に存在するどんなものよりも」

「わたしもよ、ラルフ……」

 声が、掠れる。

 リーゼも、どんなにラルフの事が好なことか。

「……無事に帰って来てね」

「ああ……この口づけに、誓って、必ず」

 ラルフもまた、抑えきれない心のままに、リーゼの唇と自分の唇に重ね合わせた。

 最初はおずおずと唇同士が触れ合うだけだったけれど、やがて、舌と舌が絡まって、別れを惜しむ。

 二人の間にもはや言葉はない。

 ただ、互いの体温と息使いが、全ての想いを語っていた。

 この甘く切ない口づけにかけて、互いが、互いのただ一人の人だと。

 愛している……と。

 しばし別れることになっても、必ず、帰る。

 そして、こうして抱きしめ合うのだと、誓う口づけだった。

 二人がそうやって抱きしめ合っている時間は、角笛が鳴り終わるまでのとても短い時間だったけれども。

 彼らにとっては、永遠にも等しく価値がある時間だったのだ。
< 11 / 25 >

この作品をシェア

pagetop