治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
「…………巨竜の……背」

 そう。

 今、リーンハルトとバウルの前に立ちはだかっているのは漆黒の竜。

 それは人と妖精族が分かつ苦山のを守る守護者だったのだ。

 鋭いかぎ爪のある大きな皮膜の翼をたたんでいる状態で、全高は十五メルテを超えている。

 苦山では、二十メルテ(メートル)以上の巨大な木々が乱立、茂っていた。

 こんなに大きい竜でさえ、すぐそばまで近づかないと案外とすぐに木々にまぎれてしまうので、その存在は伝説級、と言って良い。

 この苦山の主として君臨していた竜の末裔だ。

 竜は人間族にも、妖精族にも味方せず、その姿さえ簡単には見せずに中立を保っていたはずなのに。

 ラファエルが姿を消した三年ほど前より、妖精族の味方になりかわってしまったと言う。

 現在。

 敵対した人間たちを一歩も妖精の国に入れるものかと言うように苦山の中央に頑張って居座っている。

 この黒い竜は、いかにも空を飛ぶモノらしく、しなやかに細かったが、弱々しさは微塵も感じられなかった。

 燃える炎の光に照らされて黒曜石のように磨かれた鱗が分厚く、よろいのように身を覆い、半端な攻撃は全部跳ねかえしそうだった。

 そして。

 守護竜の肩と翼の近くにリーンハルトが良く見知ったラファエルの黒い剣、イーゴンが突きささっているのが見えた。

「もし、あそこに刺さっている剣が、現在『行方不明』とされているラファエル・フォン・シュヴァルツシルトさまの剣とおっしゃるのなら。
 あの方は、この竜と戦って敗れたのです!」

「黙れ、パウル!」

 竜の背、鱗の部分の隙間に刺さるように剣が見つかった以上。

 リーンハルトもラファエルがこの竜と戦って死んでしまった……と考えるしかなかったのだが。

 彼の身の内に眠る『リーゼ』の部分が、否定する。
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