治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
 子どものころ一緒に住んでいた貴族たちの娼館で、ラルフはリーゼの英雄(ヒーロー)だったのだ。

 どんなに強い相手でも、必ず勝ち、そして何よりリーゼに対して絶対ウソを吐くことはなかった。 

 だから。

 だから、今回もリーゼにウソなんてつくはずはなかったのだ。

 三年前。

 この苦山に来る寸前に最後にあった時、ラルフは、絶対死なない、と言ったのだ。

 相手が強く、歯が立たなかったら、逃げ帰ってでも無事に戻ると言ったのだ。

 ラルフ配下の家来は、逃げ帰って来たにも関わらず。

 本人が現れないなんてリーゼの中ではありえなかったのだ。

 王国を二分する貴族、シュヴァルツシルトの次代の当主……のはずだったラファエルが、行方不明になった今。

 もう一翼を担うヴァイスリッター家の次代の当主自らまでもが、こんなに早く激戦区である苦山に赴くことは、普通考えられないことではなかったが。

 王に苦山行きを命じられて、リーンハルトは二つ返事で引き受けた。

『リーゼ』の英雄『ラルフ』は、死なず、何処かで必ず生き伸びていることを信じていたから。

 最初の内は、ちゃんとヴァイスリッターの当主としてちゃんと兵を率いていたはずなのに。

 ラルフの剣を見つけた途端。

 グランツ王国、最強のリーンハルトは、ただの泣き虫の女の子、リーゼロッテになりかわる。

 愛しいラルフ本人に会えない、と言うのなら、せめてその、剣に触れたいと切望する。

 魔物の背にひっかかった、そのまま風雨にさらしておくわけには、行かないと考えられたか、どうか。

 この世に二つとない漆黒の刃。

 特徴的なラルフの剣を見つけた途端、反射的に飛び出してしまっていた。
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