治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
 リーゼが普段絶対見せない感情のまま。

 周りを良く見ず飛び出せば、王から下賜され、側に置いているパウルが、カラダを張って、止めに来た。

 挙句、ラファエルは、死んだと、リーゼが絶対信じたくないことを言うのだ。

 カッと頭に血が上ったリーゼが、反射的に剣を掴んでパウルを切りつけようとする、寸前。

 間一髪で、パウルはリーゼを羽交い絞めにすることに成功した。

 後から、抱きしめるようにがっちり拘束されれば、リーゼは動けなくなった。

 体格差があり過ぎる……それだけでは、なかったのだ。

 どんなに剣の腕が良くても。

 美しくありながら、女と見破られないほど男の装いが完璧でも、元の筋肉の作りが違うのだ。

 こんなにがっちりと捕まえられてしまったら、どんなに「離せ!」と叫んであがいても、びくともしない。

 一方で、リーンハルトを止めているパウルもまた戸惑っていた。

 自分の胸の中に、抑え込まれている主のカラダが、どうしても女の子だと思えて仕方がなかったのだ。

 今まで、リーンハルトが常に冷静でいた以上、こんな風に主に触れたことは決して無かった。

 一番最初、王の求めるまま。

 リーンハルトと主従関係を結んだ時に、手をとりその甲に従僕の意味を込めた口づけをした覚えがあったが、その時は。

 いかにも何時も剣を握っている者らしく、剣ダコがついているな、と感じただけだったけれども。

 今、自分の手を跳ねのけようとして、無力すぎるカラダは、あまりに柔らかく、身動きするたびに、甘い香りがする。

 目の前に強大な敵がいる、切羽詰まった状況だと言うのに、くらり、と眩暈に似たおかしな感覚に襲われる。

 まるで、恋の始まりのような危うい思いに、今はそれどころじゃない、と頭を振っても甘やかな想いは消えなかった。

 パウルの口づけたリーンハルトの手は荒れてボロボロで淑女のものとは、あまりに遠すぎていたのに。

 本当はとても華奢な作りをしていなかったか、と余計なことを思い出し、更にパウルは戸惑った。
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