治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
「リーンハルトさま! あなたはもしかして……」

 女性ではないか、と。

 切られるのを覚悟した声で、疑問を呟きかけた時だった。

 雹(ひょう)が、降って来たのは。

 先ほどより、雷鳴が鳴り響き、荒れた天気の予感はしていたけれども。

 竜が鳴いてもう一度稲妻が走ったかと思うと、親指の先ほどの氷の粒が、突然音を立てて降り注ぐ。


 バラバラバラ パキパキパキ!!


 天空から降って来た、氷の凶器は、苦山にいる生き物全てに等しく降り注いだ。

 巨大な守護者の上に。

 そして、繁みの蔭で、押し問答をしているリーンハルトとパウルの上にも、また落ちる。

 それはヒトに当たっても、怪我するものではなかった。

 しかし真夏の夜に、突然降って来た冷たい刺激に、人間たちが驚くには十分だ。

 パウルは、思わず今までリーンハルトを羽交い絞めにしていた腕を緩める。

 その隙に、驚愕から最初に立ち直ったリーンハルトが、するりと逃げ出した。

「お待ちください、リーンハルトさま!」

 なんて、声が響くころには、リーゼは、パウルの腕から完全に逃げ出していた。

 そして、雹が降ったため、急速に消え始める炎の切れ端で自分を照らして、出現した影に指を差し呟いた。

『トール』

 リーンハルトが言葉を紡いだ時には、影の中から一頭の白銀の天馬が躍り出る。

 それに、ひらりと跨ると、リーンハルトは、苦山の守護竜に向かって飛び出していた。

 雷鳴は、相変わらず轟き、天から降り注ぐ氷の粒は止まず、却って激しさを増す。

 苦山でも雹が降るのは珍しいのか、どうか。

 それとも、空飛ぶ馬に乗ってただ一騎でやってくるリーンハルトをたいしたことが無いと侮っているのか。

 ラルフの剣を突き刺したままの守護竜は、特に暴れることも無く、リーゼが近づくことを許したようだ。

 巨大な竜の真上で天馬からひらりと飛び降りると、一直線に、剣が突き刺さっている場所に向かう。

 そして、剣の柄に手が届き次第、すぐに引き抜こうとして、気がついた。
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