治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
「これ……竜に刺さっているわけじゃ、無かったんだ」

 そう。

 ラルフの剣は、竜の鱗を割って傷を作り、刺さっているのではなく。

 鱗と鱗の間に、丁度よく鞘ごとひっかけられていた。

 まるで、そこがいつもの剣の装備場所、置き場所であるかのように。

「なんで……?」

 リーゼは不思議に思ったが、ぼんやりしている暇はない。

 彼女がその鱗の置き場所から、ラルフの剣を鞘ごと引き抜いたその時だった。

 カチリ、というかすかな音を響かせて、どこからか甘酢っぱい香りがただよってきた。

 これが、グランツ王国一の魔法一家、シュヴァルツシルト家に伝わる眠りの魔法薬だと判ったころには。

 リーゼの目は、みるみるかすみ意識が遠のいてゆく。

「リーンハルトさま!」

 なんて。

 必死に叫ぶ、パウルの声を遠くに聞きながら、リーゼは、巨大な竜の背中から、滑り落ちて行ったのだった。


 …………

 …… 
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