治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
 ラルフが軽く睨めば、リーゼは首をひっこめる。

 その様子にラルフは目を細めた。

「どっちかって言うと、お前。
 本当は今みたいに綺麗に着飾ったドレス姿の方が好きだろ?」

「…………」

 言われて、リーゼは目を見開いた。 

 そう、リーゼは、嫌いでは、なかった。

 剣を振りまわすことも。

 馬やそのほか、召喚した獣の背に乗って自分が行きたい場所に走って行くことも。

 荒っぽい作業をするために、男の恰好をして歩くのは、仕方なかったし、嫌いではなかった。

 けれども、やっぱり。女とバレたらお家断絶と脅されるのは、嫌だった。

 女であることをひた隠し、綺麗なモノや優しいモノに極力背を向けてきたけれども。

 できることなら、本当は人並みに、キレイな服をきて、楽しく優雅にお茶を呑んで過ごす時間が欲しかったから。

「俺が苦山から帰って来たら、お前に自由な時間をやるよ。
 シュヴァルツシルトの奥方として、いくらでも着飾り、貴族の友人たちを山ほど呼んで優雅なお茶会でも開くと良い」

「ラルフ……!」

 いつかそんな日が来れば、どんなにいいだろう……!

 リーゼの心は踊ったが、夢を叶えるためには、ラルフが危険な戦場に出て行かなくてはならないのだ。

「わたしは……ラルフがいれば、なにもいらないわ……」

 もともと娼館の孤児同然だったのだ。

 贅沢な暮しなんて、本当に要らなかった。

 ただ、好きな人と一緒にいられる未来さえ、あれば。

 嬉しそうに華やいだ笑顔の次に、心配で表情が曇るリーゼを見て、ラルフは笑う。

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