しょーとしょーと
雨と嘘(恋)
「はい、どうぞ」
カフェで夢中になって本を読んでいた幸(さち)は、コトンと音がして、顔を上げた。
目の前に生クリームを浮かべたカップが置かれている。
「あの、頼んでないです」
「うん。でも、ほら」
この店の店長だという若い男性、石橋(いしばし)は窓の外を指さした。
いつの間にか雨が降り出していた。
「雨」
「そう。お客さん、傘をもってないでしょ? もう少し飲んでいきなよ」
彼はそう言うと、空になったカップの方を下げる。
< 1 / 99 >