しょーとしょーと
「なんだ、井上も同じ方向だったんだ。知らなかったよ」
「わたしもびっくりした」
ははは、と笑うが内心、ドキドキしていた。
もちろん嘘だ。曽田くんが同じ方向の電車に乗っていることは知っている。
だけど、今まで声をかけるなんてできなかったし、いつも同じ車両に乗っていたら気持ち悪く思われないか不安で、
わざと違う車両に乗るようにしていた。
ここは曽田くんがいつも乗る位置ではない。
どうして今日に限ってここなんだ。
チケットを持っていなかったら、偶然と思って終わるちょっとしたことではあるけど、
チケットを持っている今、手放しでは喜べなかった。
妄想が現実になるというのは、どんな未来でも思いのままになりそうで、
嬉しいのと同時にすごく不気味だ。