恋人が消えた瞬間
『…………バカヤロ』
え…………?
落ちていく時に迫りくる風と一緒に声が聞こえてきた。
それは懐かしいあの人の声。
「…………ごめんね」
思わず呟いてしまった。
地面に落ちていくのは速いはずなのに、とても遅く感じた。
『…………バカヤロ』
もう一度そう聞こえた。
涙が止まらない。
それをそっと拭うかのように声が囁いた気がした。
『……お前にはそんな事して欲しくなかったんだ』
やっぱり。
思わず小さく笑ってしまった。
同時に分かった。
あなたはあの時サヨウナラって言ったんじゃないんだね。
あなたは生きてくれって言ったんだね。
ちゃんと聞かなくてごめんね。
私はもうきっとあなたとは会えないだろうけど。
アイシテル
アイシテルよ。
サヨウナラ…………
私が静かに目を閉じた瞬間、地面には鮮血が広がった。
あなたは幸せだったね。
恋人が消えた瞬間を、みなかったんだから。