恋人が消えた瞬間
3.私は
「いやぁぁぁぁ!!!」
これは誰の叫び声?
ぼやけた瞳、震える指。
あぁ、これは私の声。
血濡れた彼の瞳はもう私を映さず。
狂った女の笑い声が聞こえてくる。
真っ赤なワンピースを嬉しそうに広がせて
彼を消した憎い女は笑い狂う。
ねぇ、あなたはもう動かないの?
いつものように笑って抱き締めてはくれないの?
優しく頭を撫でてくれないの?
私はここにいるよ。
ここにいるのに。
気付いて、気付いてよ。
笑ってよ………笑って!!
「ねぇ………起きて……」
ようやく動いた私の足はあなたに駆け寄り、そっと抱き上げる。
あなたは動かない。
「……ねぇ、もうわかったから………」
私の涙があなたに降り注ぐ。
あなたは動かない。
「…お願いだから…」
唇にそっと口付ける。
あなたは動かない。
唇に伝わったのは、吐き気のする鉄の味。
「起きてよぉぉぉっ!!」
「あはははははははは!」
私の嘆きと女の笑い声が、重なる。
私の中の時間は、そこで止まった。