気がつけば・・・愛
ーーお手伝いさんーー

頭の中で嫌味な声が
何度も何度もこだまする

私のことを完全に見下していた
場違いな赤い口紅がチラつく

夫とのことも
愛人がいると気付いてはいたけれど
興味も示さなかったのだから
寧ろ感謝して欲しい

なのに
あの視線も笑い方も口調も
全てが攻撃的で悪意が感じられた

月曜日が逢瀬の日だから
単純に美容師だと思っていた

よくよく考えれば進学塾の講師なら
通常校区内に点在する教場は
月曜日が休場日となる

こんな簡単なことにも
全く気づけなかった自分に溜息を吐き出し

泣いちゃダメだと
舌先を噛んで堪えながら会場を出ると

階段を下って
ひとつ下のフロアに出た

使用していないフロアなのか
シンとして心地良い

長い廊下の先にあるベンチに腰掛け
ポケットの携帯を取り出した

メールアプリを開くと本文を打ち込む

【今、何をしていますか?】

【ただ、あなたに会いたい】

何度も打ち込んでは
何度も削除する

【辛い‥苦しい‥もうやだ】
そう指をスライドした瞬間
堪えていた涙がポトリと落ちた


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