気がつけば・・・愛
「あ〜ら、こんな所でサボってるの?」

コツコツ響くヒールの音と
耳障りな声が遥か向こうから届いて

肩に力がはいる

近付いてくる人が誰なのか
顔を上げて確認するまでもなく


ーーなんで?ーー


追いかけてまで来た理由は?

考える暇もないまま
目の前に立った人は

「三木先生が探してるけど・・・
あなたお手伝いに来たんでしょ?
ほんとっ、役に立たないわね」

乱暴に言葉を吐き捨てた

一度ならず二度までも
“お手伝い”“役に立たない”
頭の中を回る声に気分が悪い

夫が探していたからとはいえ
この人が探しに来る理由にはならない

それでも
夫との関係は想像の域を超えないから
あくまでも仕事の関係者として
誠実に対応しなければ・・・

頭ではそう理解出来るのに
探してくれたことへの感謝が
言葉に出来なくて

俯いたままの姿勢が変えられない

「聞いてるの?」

反応のない私を見て苛ついたのか
声が棘とげしくなってきた

「家で役に立てないなら
少しは外ではって思わない?
その年になっても理解出来ないって
これだから社会に出たことのない
お嬢様は困るわね」

少し鼻に付くアルコールの匂いと
気怠そうに蔑む態度を変えない人

家で役に立たないことを
知ってる風なのは夫と親密な証拠

益々固まる私の耳に
飛び込んできたのは

「そこでなにをしてる」

近付いてくる夫の声だった
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