気がつけば・・・愛
「三木先生っ」

途端にハイトーンになる声に
別人格かと疑うも

夫の前での振る舞いが
見えてくるようで呆れた

「手伝いを頼んだのに
ここで何をサボってる
早くしなさい」

ここに座っている理由も聞かず
サボっていると決め付けた夫は

「藤村先生・・・
お手数をおかけしてすみません
吉田先生がお待ちですよ
さあ、行きましょう」

わざわざ探してくれたかのように
詫びを入れるとこちらを無視して
二人で行ってしまった

もしかして私のことを気に掛けて
探してくれたのかと思ったのに

そんな期待は持つだけ無駄だった


「・・・行かなきゃ」

涙を拭いて立ち上がろうとした時
ベンチの横にある扉が開いた


ーーっーー


流れた空気に混ざり
仄かに香るのは・・・白檀

ハッとして顔を上げると


「・・・あっ」


扉から出て来たのは良憲さんだった


「・・・えっ」


驚き過ぎて目を見開いて口元に手を当てたまま固まる

何故にここに居るのかよりも

さっきまでのやり取りが
聞こえていたらどうしようと

そのことだけが頭に浮かび
いつもとは違う装束の良憲さんが
目の前に立つまで言い訳を考える頭は
都合の良い言葉も何も浮かばなかった







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