気がつけば・・・愛
「あゆみさん、来て」

良憲さんに手を引かれ扉の中に入ると
ガチャっと鍵がかかった

「ごめんなさい‥聞こえてしまいました」

良憲さんの発した
その一言で全身の力が抜けて
床に座り込んだ

「あ、あゆみさん」

釣られるように座った良憲さんと
視線を合わせただけで涙腺が崩壊した

「・・・っ」

「辛い時は泣いた方が楽になります」

そう言ってフワリと抱きしめられ
頭の中が真っ白になった




・・・




どのくらい良憲さんの腕の中にいたのか
気分が落ち着くとハッとする

「良憲さん・・・お着物」

頰を寄せていた部分が濡れて
薄っすらファンデーションもついている

「どうしよう」

ハンカチで擦って良いものか
悩んでいるとクスっと笑う声がした

驚いて顔を上げると

「気にしないでください 」

寄りかかる相手が自分であったことが嬉しいと目を細めた良憲に

話すつもりも無かった夫婦のことを
吐き出した


「よく我慢しましたね」


頭の上に置かれた手から
温もりが伝わって涙に変わる

傷ついてないつもりの私は
ずっと我慢してきたのかもしれない

「もうやめます」

「え?」

「もう、お終いにします」

少し笑顔を作って目の前の良憲さんを見ると
揺れる瞳が憂いている


「ご夫婦のことですから
納得がいくまで話し合ってください」


涙を拭きながら頷くと
哀しげな目をしたままの良憲さんを
部屋に残して階段を上った


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