気がつけば・・・愛
通夜振る舞いの席には戻らず
帰る直前まで裏方として
“お手伝いさん”の役を全うした

それは・・・
泣いた顔を誤魔化す為と
夫と彼女の姿を見たくなかったから

ヤキモチではなくて
防衛本能みたいなものだと思う

これ以上夫とのことで
神経をすり減らすことはしたくなかった


作業に没頭したことで
喪主である奥様からは
丁寧な労いの言葉を頂いた

それは夫へも向けられ
夫の頰を綻ばせることにもなった

帰りの車の中で

「役に立ったんだな」

そう言葉にした夫は
アルコールの所為もあってか
30分程の距離を眠っていた

狭い空間の居心地の悪さを
あまり感じずに済んだのは良かったけれど

労いの言葉のひとつもかけて貰えない自分に
何度ため息を吐いただろう

何も言わずとも察してくれた
良憲さんのことを考えるだけで
胸があったかくなる

明日は本葬なのに
汚してしまった胸元を思い出して
胸が締め付けられるように痛む

控え室を出る前に見た
哀しい顔もその痛みと重なる

今まで意志を持たずにきた自分
それを変える時なんじゃないか・・・

胸の中に渦巻く黒い闇を吐き出すように
頭の中に【離婚】の文字が
クッキリ浮かび上がった
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