気がつけば・・・愛
寛子が来たのは思っていたより早い夕刻

「夕食の前に済ませましょう」

重そうな書類の束を持って
通されたのは資料部屋兼相談室がある部屋で


「ここは事務所へ来られない人専用なの」


そう言って目の前に座った寛子は

「案外簡単だったわ」

口元に笑みを浮かべた


先ず広げられたのは
夫の署名が入った離婚届

まさか今日の今日で貰えるとは思わず
目を見開くと

「驚いたでしょ、それから‥」

続いて出てきた書類に
更に驚くことになった

慰謝料の代わりのマンション
家財道具一式と車に至るまで
詳細な財産分与が記載されていた

生命保険の受取人の変更や
車の名義変更に至るまで
必要書類が揃っていて更に驚く


「その代わり・・・」


これは文書に出来ないからと付け加えられたのは
進学塾の経営者にバラさないことを
念押されたと渋い顔で話した寛子

「謝罪の言葉は最後まで無かったけど
簡単に終わったから良しとしましょ
今夜はあゆみの新しい人生に乾杯するわよ」

週末に引越しを済ませるという夫と
顔を合わせることのないように
週明けの手続きが並んでいた

「これは念のため」

最後にテーブルの上に出されたのは
ボイスレコーダー

「聞きたくないと思うから
再生はしないけど‥とりあえず
全て録音してるから不履行があれば
叩き潰しましょ」

ハハハと笑う寛子を見て
なんだか力が抜けて
ようやくつられ笑いが出来た










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