気がつけば・・・愛
ーーえっーー
寺の駐車場に到着すると
車寄せから一番遠い所しか空きがなくて驚いた
ーー法要かなーー
少し残念に思うのは
良憲さんと直ぐには会えそうもないこと
分かり易く曇った表情を
何とか誤魔化しながら
カメラを持って階段を登った
芍薬を撮りに来てから数ヶ月
眼に映る景色は秋へと移り変わっていた
あの時と同じように
階段の途中で何度も立ち止まっては
カメラのファインダーを覗く
パシャ
心地よいシャッター音と
山門が近づくにつれて高鳴る鼓動を感じ
感情がコントロールできなくなる
・・・大丈夫
言い聞かせるように
胸に手を当てて深呼吸しては
また歩みを進める
・・・やっぱり
車の数を思い出させるように
本堂から声が聞こえ漏れてくる
・・・写真を撮ってよう
法要なら時間がかかるはず
そう思って釣鐘堂の脇を通って
大きな銀杏の木の下へと移動した
まだ実は落ちていないけれど
鮮やかな葉を見ているだけで
移ろう季節を感じる
そっと幹に触れて目を閉じると
息吹が感じられて心が落ち着く
大きな幹をグルリと回り
大振りの枝を真下から撮る
風を感じる度に
カサカサと立つ音も心地よくて
夢中になった
足元に集められた落ち葉に視線を落とす
・・・良憲さん
竹箒を使う姿を想像してクスッと笑う
この寺の至る所に良憲さんの存在が見える
その落ち葉の山を見ながら
ファインダーを覗くと
「良い写真は撮れましたか?」
背後から懐かしい声がした