気がつけば・・・愛
「本堂をご案内しましょう」
穏やかな瞳に誘われてヒールを脱ぐと袈裟の後ろに続いた
昭和初期建立の本堂は
外観の御柱からは想像出来ない内部は、大きな梁が落ち着いた深い色合い
奥に鎮座する御本尊は
惹き込まれるような目をしている
「境内の仏像はご覧になりましたか?」
「え?、あ、すみません...お花に夢中で...」
ペコリと頭を下げると
「ではこの後に」
笑顔が返ってきた
チリ一つ落ちていない長い廊下を進むと
引き戸を開けた
「ここが私の部屋です」
六畳程の和室には隅に小さな机があり筆と硯が置かれている
続き間にはキッチンが見える
「住職はおひとりですか?」
何気なく聞いたのは
掃除の行き届いた室内と
水滴一つ残っていないシンクを見たから
「私は...ひとりですよ」
よく考えればおかしな質問
更に・・・居住スペースまで見せてくれたことも
何故・・・と思う余裕はなかった
何を質問しても変わらない穏やかな笑顔は
被写体探しの訪問を素敵な時間に変え
ささくれ立つ気持ちが潤った