気がつけば・・・愛
サプライズ
12月
街は赤や緑の色で溢れていて
小さなテーマパークのようなイルミネーションには何れも目を奪われる
それを眺める恋人達は寒さの所為か
距離を縮めて親密さを増している気がする
誰もが愛を囁く季節が
一番忙しい自分は
これまで
“クリスマス”というイベントを考える暇もなく過ごしてきたし
結婚してからは
あゆみの運転で檀家さん廻りをして
忙しくするうちに大晦日を迎えるというのが恒例だった
「良憲さん、次の角でしたか?」
「うん、そこで降りるよ」
「はい」
「ありがとう」
自分も忙しいのに態々送迎をしてくれる
可愛い奥さんに
今年は
言えないことがある
それは・・・
『お父さん、うちはクリスマスやっちゃダメなの?』
数日前に愛しい我が子“心”から
幼稚園で作ったオーナメントを
寺に飾って良いかと問われた
“寺”の子だけれど普通の子と同じように育って欲しいから
他の園児達と同じように何でもやらせるのが我が家の流儀
でも・・・
飾りまでは無理だと思っているようで
目の前に座った心の眉毛はこれでもかって程下がっていた
「良いよ、ただし・・・」
片目を閉じて内緒話をすると
心はキラキラした笑顔でその内緒話に聞き入った
「絶対、お約束!」
最近“お約束”が口癖の心らしく
それに“絶対”を付けて
内緒感を特別にした
・・・で
何が内緒話かって?
それは・・・
[クリスマスパーティー]をすること
四六時中一緒に居るあゆみにバレないように
僅かの隙間を見つけては心と準備を続けてきた
そして今日
街で車を降りた良憲は
これから図書館で時間を潰すと言っていたあゆみに手を振ると
予約していた店へと急いだ
実は今日の檀家さん廻りは嘘
帰ったら御本尊に詫びるから見逃して欲しいと頭の中で言い訳をしている
予約した店二軒でお目当てを受け取ると
図書館に居るであろうあゆみを放ったまま
バスに乗って寺へと帰った
「お父さんお帰りなさ〜い」
トトトと走って出迎えた心と
今日の為に頼んでいた母に
居住スペースで作戦を説明すると
それぞれが思い思いの作業に取り掛かった
* * *
夕方
母も役目を終えて帰った後で
一人で寺まで帰ってきたあゆみは
「ただ、いま?」
トナカイの格好をした心を見て固まった
「「メリークリスマス」」
「?」
ポカンと口を開けたままのあゆみを抱き寄せると
もう一度耳元で「メリークリスマス」と呟く
「ヒャ」
可愛い反応をするあゆみの手を引いて
リビングの戸を開けると
「わぁ」
入り口に突っ立ったまま更に固まった
「ど、うした、の?」
見慣れたはずのリビングが
キラキラした飾りと
赤と緑の折り紙で作った飾りで別空間の様
心が作ったオーナメントは
目立たせて飾ってある
テーブルの上には
大きなチキンとサラダにオープンサンド
限定のケーキは生クリームで砂糖菓子のサンタが乗っている
それらを順に見回すあゆみの肩を抱くと
「お母さん、メリークリスマス」
心は幼稚園で描いた家族の絵を広げた
「・・・し、ん」
心の籠もった我が子からのプレゼントと
「あゆみ、メリークリスマス」
あゆみに似合うと思った
赤いチェックのマフラーを首に巻くと
「りょ、う、けんさ、ん」
あゆみの涙腺が崩壊した
あゆみと家族になって初めてする
クリスマスパーティー
お寺だけど
出来ない訳じゃないよって
教えてあげたかっただけなのに
「しあわせ」
あゆみはそう言って
感謝という愛を返してくれた
君と居るだけで
何でも出来る気がする
君が居るだけで
胸の中に温かさが生まれるよ
「あゆみ、愛してる」
こちらを見上げるあゆみの顎を掴むと
ゆっくり唇を重ねた
「あー!お父さんだけ狡い!」
今夜はあゆみを独り占め・・・
出来るかなぁ
サプライズ fin