気がつけば・・・愛


「これから読経ですが...
ご一緒にいかがですか?」


「あ……はい」

断る理由もなく
いや・・・寧ろこちらからお願いしたい

自然にそう思った




本堂に入るとなるべく隅に座る
何度も“近くへ”と促されるも
やんわり断ると

住職は御本尊の前で
大きなリンを鳴らした

ゴーン、ゴーン

心の奥底に届くような音

それに続いて低く響く声が耳に届く

何故だか分からないけれど胸がいっぱいになり頬を涙が伝った


夫の事で霞のかかる心が
洗われるようで

ただ・・・無心に手を合わせ
落ちる涙を拭いもせず

ずっと住職の背中と御本尊を見つめていた







やがて……リンが大きく響くと
住職がゆっくりと振り返った


「・・・っ」


少し見開いた瞳は
こちらの涙に気付いたからだろう

「ありがとう...ございました」

深々と頭を下げると
バッグの中からハンカチを出した

ーーきっと化粧が剥げてバケモノだわーー

ハンカチに付くマスカラに
深いため息を吐いた
< 8 / 77 >

この作品をシェア

pagetop