人工知能な女の子
素直であること
「ナルセさん何かいます。」


そう言った彼女の指差す先を見ると恐らくこの遊園地のマスコットであろうイヌともネコともとれるキャラクターが子供たちに囲まれていた。


「この遊園地のマスコットキャラクターらしいよ。」


入り口でもらったパンフレットに書いてある説明をそのまま彼女に伝えた。


「へえ。可愛くないですね。」
と言いながらマスコットの背中をツンツンつついている。


つつかれていることに気が付いたマスコットは大げさなリアクションをして、手を伸ばした。センカは不思議そうに僕の方を見る。

「握手しようとしているんだよ」
そういうとセンカも手を伸ばして握手をした。


マスコットは握った手を大きく上下に振った。センカは困った顔をしていたがどこか楽しそうでもあった。


マスコットと別れ、僕たちはメリーゴーランドに乗った。理由は単純で近くにあって混んでいなかったからだ。

乗り終えた後感想を訊ねるとセンカは「回っていましたね」と答えた。


何を考えているのか次に僕たちが乗ったのはコーヒーカップだった。

彼女はずっとコーヒーカップの中央のハンドルを回し続けていた。そのため中々の速さで回っていて危うく酔うところだった。


コーヒーカップから降りた彼女は「これ以上ないくらい回っていましたね」と呟いていた。


次は回らないものという注文だったので彼女が高いところが大丈夫かを確認し、フリーフォールを選んだ。個人的に落下時の宙に浮く感覚は嫌いではなく乗りたかったのが理由の一つだ。


–その後お互いが乗りたいもの、近くにあるものを手当たり次第に乗って昼食をとることにした。ここまでで予想外だったことは待ち時間の会話に困らないことだ。途中で話すことがなくなってしまうかななんて考えていたけれど、そんな事はなかった。


昼ごはんは僕の奢りなので何を食べたいか彼女に訊ねると「何にしようかなー」と笑っていた。


彼女は感情に素直なのかもしれない。つまらない事はお世辞でも笑わないし、面白いと感じれば意外と笑う。僕たちは面白くないことでも愛想笑いは浮かべるし、腹が立った時でもそれを飲み込んで笑って流してしまうことがほとんどだ。


世間では感情に素直なことをワガママと言うのかもしれないが彼女をみてる限りそれは決してワガママなんかではなくて、むしろカッコよくて、羨ましく思えた。


結局センカはアイスクリームの乗ったパンケーキを、僕はハンバーガーを食べた。
終始彼女は美味しそうに食べていて、見ているだけでなんだか心が温かくなるようなそんな気持ちにさせられた。


昼食を終えお店の外に出るとセンカは「ちょっと待っててください」と再び店内に入っていった。しばらく待っているとセンカが戻ってきた。お待たせしました、と言った彼女はチュロスを2本持っていた。


「お昼ご馳走様でした、お礼って言うと変ですけど1本差し上げます」とチュロスをくれた。


勝負に負けたからお昼を出したのに申し訳ないと思いつつもお礼を言って彼女からチュロスを受け取った。


センカは
「買おうか迷ってたんですけど買って良かったです。美味しい」と満足げだった。


「さあ、ナルセさん午後からも張り切っていきましょう」


一呼吸おいて彼女は僕にそう言った。
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