海賊船「Triple Alley号」

翌日から船長直々の銃特訓が始まりました。
「虎」は自信作だと言って1つの藁人形を持ってきました。藁人形に自信作があるのでしょうか。
「虎」が僕の銃の型を見たいと言うので、渡しました。
「マスケットか……豹兄も持ってるな」
「え?そうなんですか?」
「まー大きさ的には俺のピストルと変わりねぇか」
そう言いながら銃――ピストルを掲げました。確かに、長さが僕のと同じぐらいに伸びています。改造したのでしょう。
「そうだ!お前のこれ、改良と改造と魔改造と、どれがいい?」
「い、いえ、どれも結構です……」
「どれがいい?」
「……あの、他に選択肢は?」
「ない」
目が何かを期待して輝いています。犬耳がパタパタと動いていますが、一体どういう原理なのでしょう。ここは一番マシそうなものを選ぶ他ありません。
「じゃあ――改良で」
「ちぇっ面白くねぇやつ」
「虎」は急に不機嫌になり、顔の脇でまだパタパタしている跳ねた髪に気づいて撫で付けました。どうやら無意識だったようです。
ちなみに言葉の意味を訊くと、
「改良は外見変えずに性能アップ、改造は外見変わって性能大幅アップ、魔改造はそもそもライフルじゃなくなるな」
と……。改良を選んで正解でした。
「じゃ、始めるか。発砲のやり方は分かってるか?」
「えと……ちょっと微妙、です…」
「そっか。じゃあ、そっからだな」
「虎」の教え方はとても分かりやすく、大雑把で適当そうな性格からは意外に思えました。戦場で見たあの狂気は影も形もありません。今や別人のように見えます。
たった1時間だけの特訓でしたが、人を殺す道具と言うだけで握ることさえ出来なかった僕は、人の急所という急所を覚え、狙い撃ち出来るまでに成長しました。「虎」は僕の成長ぶりを大層喜び、次からは藁人形を小さめにして練習しようと言いました。素質があるとも褒めてくれました。嬉しいことなんだかいまいち分かりませんでしたが、マルクル大佐にも報告したくてウズウズしています。
「虎」は僕の銃――マスケット銃と呼ばれるそれを持って作戦室に入っていきました。複雑な気持ちで見送りました。

特訓後の昼食は格別に美味しいものでした。ルナは僕の真正面に席を移し、特訓についてあれこれ聞いてきました。これは確実に嬉しいことでしたが、シゲが隣でいちいちニヤニヤしているのは少し嫌でした。
シゲは僕が誰からの特訓を受けているか知らなかったので、仕返しの意味も込めて教えてやりました。シゲはそれまでの笑顔を一瞬で引っ込め、驚きと羨望の入り交じった顔になりました。
「……う、嘘だろ?」
「本当だよ。ねえ、ルナ?」
「ええ、私もこの目で見たわ」
「ま、マジかよ……いいなぁ、ずりぃぞ!!」
「そんなこと言われてもなぁ」
優越感に浸っていると、反対側の隣に座るハルタが羨ましそうな顔で脇腹をつついてきました。
「ねえ、どんな感じだったの?厳しかった?」
「いや、全然。僕が分かるまで丁寧に教えてくれたし、出来た時なんてすごい喜んでくれたよ」
「いいなぁー、俺も教わりたい!!」
「じゃあ自分で頼んだら?僕も形的にはそんな感じだったし」
「しっかし、畏れ多くてとても話しかけんのなんて……」
「あら、そんなの簡単じゃない」
ルナがシゲの方を向いたので、僕は急にシゲが憎らしく思えてきました。
「あの人達ってだいたい暇だから、声かければ喜んでついてくるわよ」
「でも、山猫先生に話しかけんの怖くねぇか!?」
「山猫船長?あの人、ああ見えてとっても優しいのよ。困ってる人見たら放っておけない性格だし」
「何でそんなこと知ってんだよ?」
「それは……っ」
ルナが突然黙り込みました。思い出したようにスプーンを手に取り、スープを食べ始めました。様子の急変した彼女に、僕達3人は顔を見合わせました。
彼女が何か隠していることは明白でした。
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