海賊船「Triple Alley号」

情報収集班に配属されてからもう2ヶ月が経ちました。日々収集に追われ、時間が経つのが随分と速く感じられるようになりました。
ルナとはあれから全く進展していません。週に一度の剣術の稽古と食堂で話す以外、彼女と接触する機会がないのです。午後を情報収集班として活動しているせいもあって、忙しくてそれどころではなくなっていたのです。
どこかにチャンスはないかと暇な午前中探し回っていたおかげで、ある日興味深い光景を目にしました。
作戦室の近くを通った時のことです。いつもなら武器を整備したり開発したりする音しか聞こえないのですが、この日に限って人の声が聞こえました。それも、ちょうど聞きたかった声です。
「―――れなら、いけそうです!ヨシノさん、ありがとうございました」
そう言って作戦室から出てきたのはルナでした。手にカットラスを持っています。誰と話していたのでしょう、相手の声は聞こえませんでした。ヨシノさん……一体誰でしょう。他の女子班の室長でしょうか。
何だか気になり、偶然を装って彼女と鉢合わせしました。
「あら、コルーシ!こんな所でどうしたの?」
「いや、ちょっと景色を眺めたいなと思って……なんか話し声が聞こえたような気がしたんだけど?」
「気のせいじゃない?」
ルナは作戦室を無意識に一瞥しました。また何か隠しているようです。
いつの間にか詮索するような目付きになっていたらしく、ルナは眉根を寄せて僕を見上げました。
「どういうつもり?」
「えっ?」
「3船長なら忙しくて相手出来ないと思うわよ」
「そ、そう…」
僕の目は自然とカットラスに注がれていました。普段腰に差しているのに、今は手に持っています。彼女は僕の目線に気付くとすぐにカットラスを左腰に差し、これ以上は何も聞かれたくないと言うように大股で歩き去りました。
嫌われてしまったでしょうか。好奇心のあまり何てことをしてしまったんでしょう。馬鹿な自分に腹が立ち、むしゃくしゃしました。

彼女はその日の午後には機嫌を直してくれました。以前と変わらず接してくれるのは勿論ありがたいのですが、あの時誰と話していたのか訊くことは叶わなくなってしまいました。マルクル大佐への手紙にも書きましたが、ヨシノなどという人物は知らないと言われました。蟠りが常に胸の奥に残り、モヤモヤします。
ルナの過去についても謎だらけでした。どうしてここにいるのか、いつからいるのか、彼女は1つとして教えてくれません。彼女にもトラウマがあるのでしょうか。こればっかりは情報収集班も知らないでしょう。

情報収集班と言えば、彼らの収集のやり方は人の心理を上手く突いたものでした。
ジョジーさんとアーサーさんは人をたぶらかすのが大の得意でした。巧みな話術と容姿で、どんなに用心深くて口の堅い人でも心を開いてしまうそうです。更に2人には取って置きの必殺技「一緒に寝る」という技があるそうです。ちょ、ちょっと恥ずかしいですが……
双子は不思議な聞き出し方を用います。
まずクダルが相手の懐に飛び込み、何でもすぐに忘れるところを見せつけます。相手が安心して何でも打ち明けるようになるまで待ちます。
そして、ここが不思議なんですが、いつの間にか双子が入れ替わっているのです。ノボルがクダルになりきって愚痴らせ、その中から必要な情報を聞き出すのが彼らのやり方だそうです。僕にさえ種明かしをしてくれませんが、2人が優れたマジシャンであることは分かりました。
僕はと言えばマルクル大佐に手紙を書いてもらっているだけなんですが、何故か他の皆はすごいことだと褒めてくれます。
「よりによって海軍の情報を盗み聞きしてくれるような大胆な人が身近にいるってのも容易じゃないわよ」
「お前の為にそこまで命懸けてくれるなんて、泣けるじゃねぇか。お前は巧みに人の心を掴むやつなんだな」
「流石はルッコラ君だね!」
「ルッコラは葉っぱだよ、いい加減覚えろ!!コルーシだっ!!……それはともかく、お前すげえやつなんだな!」
「え、そ、そんなことないと思いますけど…」
「おチビちゃんたら、なかなかやるわね!私も燃えてきたわ」
「ジョジー、行くんなら俺も一緒だぞ」
「アーサーちょっと、あんた魅力ないんじゃない?おチビちゃんの方が魅力的よ」
「ひ、酷ぇなそれは!しかも否定出来ねぇ!」
「嘘よ。あんただって十分魅力的よ」
2人はさっさと別世界に入ってしまいました。双子と顔を見合わせ、3人でクスクス笑いました。特別なことをしたわけでもないのに褒められて、嬉しかったのです。
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