海賊船「Triple Alley号」

僕はルナと話すチャンスを再び探り始めました。もしかしたら母の遠い血縁者かもしれないと思ったのです。それほどにルナは写真の母とよく似ていました。
暫くルナとはすれ違いもしませんでした。まだあの日のことで警戒しているのでしょうか。何もないまま1ヶ月が過ぎ、僕は彼女との進展を諦めようとも思うようになりました。

しかし、とうとうチャンスがやって来ました。
ある夜のことです。トイレに行く為に部屋を出た帰りに、ふと甲板で夜景を見てみたいと思いました。梯子を登ると、誰かが船の縁に寄りかかって空を見上げています。長い銀色の髪――ルナです。
足音に気付いてルナが振り返りました。目が合い、僕は咄嗟に両手を上げました。
「ご、ごめん!たまたま見かけたから、あの…」
「トイレの帰り?」
「あ、うん……あの、何で分かったの?」
「手が濡れてるし、さっき下で水の流れる音がしたから」
ルナは怒っているという感じではありませんでした。ハンカチを渡してくれたので頭を下げながら手を拭きました。緊張と不安で手が汗ばみ、せっかく拭いたのにもう濡れてきました。
自然な流れになるよう他愛ない会話を続けてから、例の写真を取り出して彼女に見せました。
「あの……君、この人のこと知らない?」
「何これ…写真?」
「う、うん。僕の両親の」
マルクル大佐のことは親戚と紹介しました。海軍の大佐で、なんて言ったら僕が疑われそうです。
「貴方の両親を私が知ってるかって?勿論、知ってる訳ないじゃない」
ルナは呆れたように言い、それから微笑みました。
「でも、素敵なご両親ね。お元気なの?」
「死んじゃった」
「えっ!?」
あっと思った時にはもう口走っていました。ルナは驚いて口を手で覆いました。目を見開いています。
「そ、そうだったの…ごめんなさい、私……っ」
「いや、いいんだ!僕も両親のことはちゃんと覚えてないんだ…」
「そんな昔に亡くしたの?」
「うん。この写真を撮ってすぐだって」
「そう……どうして亡くなったの?」
「えと、それは……海賊に、襲われて……ほ、他の海賊にだよ、この海賊団じゃなくて、あの…うん」
ルナは息を呑み、何か言いたそうに口を開きましたが、結局何も言わずに閉じてしまいました。僕から目を逸らし、俯きました。
無言が続いたあと、ルナが決心したように顔を上げました。
「実はね………私も、そうなの」
僕は今聞いた言葉が信じられず、ポカンと口を開けて彼女を見ました。ルナは唐突に語り始めました。
「私、6歳の時に両親を亡くしたの。海賊に殺されたわ。勿論、他の海賊によ。怖かったの。2人とも体中から血を流してた。いくら呼んで揺さぶっても、全然起きなかったわ。私、何も出来なくて……お母さんの手を握って泣いてたら、急に海賊達が倒れて、そしてあの人達が現れたの」
話すうちに鮮明に思い出したのか、ルナの目に涙が浮かんでいます。一瞬戸惑い、肩を抱き寄せてみました。ルナは身を委ね、僕の肩に顔を埋めました。
「最初に来てくれたのは虎船長だったわ。あの人、私を見て怯んだの。女と子供が大嫌いなのよ。オロオロしてたら豹船長がやって来て、『一緒においで』って言ってくれた。私はその時から『Triple Alley号』の一味になったの。3人の他では私が最初だったわ」
震える声でそう言い、僕を見上げました。涙に濡れた頬が月明かりで光りました。ルナは泣きながらも笑い、僕をじっと見つめています。
美しい――まず思ったのがそれでした。何をすればいいか、もう分かっていました。
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