海賊船「Triple Alley号」

翌日の朝食ではついに、無理を言ってルナの隣に座りました。焼魚をナイフで切っていると、ルナが僕の肩に頭を凭せかけてきました。顔を見合わせてにっこりと微笑み、次に目の前で食べるのも忘れてこちらを見ているシゲとハルタに笑いかけました。
「……おおお、おま…おま……い、いつの間に、そんな……そんな……っ」
「お、おめでとう…?」
「ありがとう、2人とも」
余裕たっぷりに言うと、2人の表情がサッと変わりました。明らかに僕を睨み付けています。嫌なはずなのに、寧ろ嬉しくなってしまいました。
ルナが更に甘えてきました。僕の分のデザートも欲しいらしく、腕をつついてねだりました。僕がデザートのアイスを手にとると口を開けたので、俗に言う「あーん」をしてあげました。反対側から痛いほどの視線が飛んできましたが、痒くもありません。
ルナはお礼にパンを1つくれました。同じように食べさせてもらうと、テーブルの下でシゲに蹴っ飛ばされました。やはり痒くもありませんでした。

朝食の後、「虎」との特訓まで時間がありました。ルナと2人で甲板から海を眺めていると、不意に肩を叩かれました。振り返ると「豹」が立っていました。笑みを浮かべてはいましたが、どこか深刻そうな顔をしています。
「ちょっと、いいかな?」
「あ、はい」
ルナに謝り、「豹」の後に続いて物陰に入ります。「豹」は笑顔のままでしたが、いつもと様子が違います。何だか……笑顔が怖い。
「君達のプライベートだし俺は親でもないから、あれこれ煩く口出しするつもりはない。でも、これだけは忘れないでね」
「豹」の笑みが一層深まりました。その迫力に思わず仰け反ってしまいました。
「俺達がルナを育てたも同然なんだ。つまり、親代わりでもある。もしルナを幸せに出来ないようなら――」
「だ、大丈夫です!!幸せにしますから!!」
「神に誓うかい?」
「勿論です!!!」
神より先に「豹」に誓った方が良さそうです。「豹」は途端に笑顔の種類を変え、今度はにっこり笑いました。
「そう、それなら良いんだ」
邪魔して悪かったと謝られ、漸く「豹」から解放されました。ルナにこのことを知らせた方が良いのか分からず、結局何も言わず仕舞いでした。

「虎」との特訓でも同じようなことが起こりました。と言っても、「虎」の方がよっぽど怖くありません。
彼は特訓中ずっと何か言いたげにソワソワしていました。犬耳も忙しなく跳ね回り、そのせいで僕も練習に身が入りません。思い切ってこちらから話しかけることにしました。
「あの……何かありましたか?」
「ふぎゃっ!い、いや、別にそんな、大したことじゃ……っ」
そう言いながらますます大したことのようにこちらを見つめてきます。
「あの………お、お前達の仲がどうなろうと、し、知ったこっちゃねぇんだが、あのだな……」
「ルナは3船長が育てたも同然だから、親代わりということになりますよね。だから、親として娘の将来をこんなヒョロヒョロに任せても良いのか確かめたい、ということですね?」
「あ、うん、そう」
「豹……船長にも同じこと言われました」
「あれ、そうなのか?」
「えぇ」
「あー、そうか!ならいいや!おう!」
「虎」は僕の返事を聞いた訳でもないのに勝手に安心し、胸の支えが取れたように笑いました。それだけ不安に思われていたことに少し腹が立ちましたが、確かに自分にはまだ力が足りていないと思うので悔しいです。

昼食を食べた後でトイレに立ち寄ると、珍しく「山猫」に出会しました。「山猫」はいつもの態度で僕に先を譲ってくれましたが……微妙に隠しきれていません。
用を足して出てくると、道を塞がれました。やはり「山猫」も僕に説教をしたかったようです。
「……ウェナン、少しいいですか」
「あの、ルナとのことなら2人の船長にも同じこと言われました」
「あぁ、そうですか。豹兄さんは何と?」
「貴殿方3人がルナを育てたも同然だから、親代わりでもある。親として娘の将来をこんなヒョロヒョロに任せても良いか確かめたい、という感じです。虎も……虎船長も同じことを言いたかったみたいです」
「私も同じことを言いたかったんです。分かっているのなら結構」
「山猫」はクールにそう言い、引き留めて悪かったと道を開けてくれました。何だか3人が三つ子のように思えてきて、ちょっと面白いです。同時にルナが大切に育てられてきたんだと思うと、この3人にも少しは感謝しなければならないと思いました。海軍の任務の話は一旦棚に上げました。
< 25 / 56 >

この作品をシェア

pagetop