海賊船「Triple Alley号」

幸せな時間はだいたい長く続きません。僕達の例もその手のフラグからは逃れられませんでした。
例の大海賊とまた戦った時のことです。勿論勝ちましたが、どうも胸騒ぎがしてなりません。
「虎」の後から特攻隊が帰ってきました。皆で固まり、何かを運んでいるようです。一団が歩いた後に真っ赤な道が敷かれています。夥しい量の血です。
運ばれているそれが目に入りました。周囲から悲鳴や溜め息が聞こえましたが、そんなものはどうでもいい。
一味の初めの犠牲者はウカミさんでした。全身から血を流し、もはや人にも見えません。ショックで口が聞けない僕の肩をタニさんに叩かれ、キツく抱き締められました。背中に爪が食い込みました。
タニさんの肩越しに神崎さんが見えました。「203㎜連装砲射撃隊」から1人離れ、怖い顔をして立っています。固く握った拳から血が垂れています。泣くまいと歯を食い縛り、それでも潤んだ目を隠すことは出来ませんでした。

その日は誰もが落ち込んでいました。当然ですが2船長も酷く塞ぎ込み、夕食にも姿を見せませんでした。そのまま死んでしまえば良いのに、と思っていました。元はと言えばそもそもの原因は僕にあるのですが、誰かに八つ当たりでもしなければ自分の身が保てません。
6人になった寝室をやけに広く感じました。皆黙ったまま、寝る支度をしています。しかし神崎さんだけは微動だにせず、ウカミさんのハンモックを眺めていました。僕も寝る気にはなれず、手を止めてウカミさんの生前の姿を思い浮かべました。一緒に過ごした思い出は少しだけでしたが、そのどれもが鮮明に思い出せました。1つひとつがキラキラ輝いて、ウカミさんの楽しそうな顔を照らしています。楽しそうな顔が急に血で染まり、固まって動かなくなりました。
あの頃にはもう戻れない。今更ですが、そのことに気づいてしまいました。昼に見た惨状が目に焼き付いて離れませんでした。

更に絶望したのが、ウカミさんの死からまもなくしてシゲが特攻隊に昇進(降格と呼びたいですが)したことでした。ウカミさんの代わりです。シゲは嬉しそうでしたが、あまり歓迎している風でもありませんでした。僕の色眼鏡で見ているからでしょうか。
不安からか、シゲによく個別特訓を頼まれるようになりました。僕はあまり乗り気ではありませんでしたが、これ以上誰かに死んでほしくないという思いで毎回付き合っていました。
シゲもだいぶ強くなりましたが、まだ僕に一度も勝てていません。決着が着くとシゲは決まって「次こそは勝つからな!!」と言いました。それは死亡フラグを毎日更新しているようなもので、心配で眠れなくなってきました。戦闘時もシゲをずっと目で追い、可能な限り支援しました。シゲはこれに不満そうでしたが、死ぬよりはマシだと思ってくれたようで何も言ってきませんでした。
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