海賊船「Triple Alley号」

皮肉なことに、ベンターのおかげで獄中じゃ分からないようなことも知ることが出来た。主にヨシノ達の動きだ。
彼らは俺を助ける為にこちらへ向かっているそうだった。2人とも賢いから、俺の居場所もすぐ分かったんだろう。ルークと同じ、警備の1番厳重な所だ。
更にやつの話では、ヨシノはあの連装砲を改修強化したらしい。精度と威力が明らかに上がっているそうだった。
連装砲は俺達3人と船員の皆で作り上げた、謂わば思い出の品だった。やろうと思えばいつでも改修出来たが、敢えてしてこなかった。せっかくの思い出を壊したくなかったし、そんなに強くする必要なんてないと思ってたからだ。それを強化したというのは、ヨシノもついに過去の記憶に別れを告げたということだ。もしくは戦力が減ってしまったから仕方なく、か。そうでないことを祈るばかりだが。
ベンターは、ルークを失ってからあの海賊団は随分と大人しくなったとも言った。無駄な流血を好まなくなったのは良いことだ。俺が捕まった直後から暫く聞いていた情報では、あいつらはかなり暴れ回ったらしいし。抑えが効かなくなったんだろう。ヨシノは元々人殺しが好きだし、ルークは好きじゃなかったが、殺しにかけては天性の才能があった。
そういう点で2人はとても似ていた。俺には到底出来ないような惨い殺し方も、2人は楽々やってのけた。
そんな2人を、何故か俺だけが止められた。ヨシノ曰く「そういう世界と正反対の世界で生きてきた人が新鮮」だそうだ。確かに俺は貴族の子供だったし、その時代には血生臭いものなんて見たことがなかった。ルークは家で狩猟をやっていたから死骸には慣れっこ、ヨシノは自然物の毛皮と人工物のコートを両方見て育ってきた。再びヨシノの言葉を借りれば「1つの毛皮を見る度に、どんな動物からどんな風に毛皮を剥いだのか常に想像していた」らしい。俺は革製品を見てどんな動物から……なんて思わなかったけど、もしヨシノの立場にあったならどうなったかは分からない。しかし、単に生まれ育った環境の違いだけで、性格にこんなにも差が出るんだろうか。

つらつらと考えていたが、あの時間帯がやって来たようだ。足音が聞こえたので、早めに回想を始めることにした。今日はたくさん思い出してやる。
連れ出される時にはもう目が虚ろになっていた。

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