海賊船「Triple Alley号」

読者の皆さんに伝えておきたい悲しいことがあります。
とうとう僕にも順番が巡ってきました。タニさんと共に「特攻隊」に任命されてしまったのです。
僕はシゲの代わりだし、タニさんは怪我で出られない丸さんの代わりです。タニさんは誇らしそうにしながらもどこか不安そうでした。
僕はもっと不安でした。海軍と戦うことになったら、仲間内で傷つけ合うことになるかもしれません。マルクル大佐に報告し、返ってきた手紙の文字が所々ボヤけていました。大佐を泣かせてしまったと思うと更に悲しくなりました。
「親戚の皆に知らせといた。無事を祈る」
乱雑な字で書かれた手紙から、言葉以上の思いを受け取りました。

一味は再び前のように穏やかな海賊団に戻っていました。それどころか、今では戦いという戦いを避けています。おかげで特攻隊の出番も非常に少なくなりました。前回とは打って変わって、皆消極的になっていました。
代わりに情報収集班の仕事は増えました。もう1つ悲しいことと言えば、何よりの訃報がアーサーさんの死でした。
ジョジーさんは些細なことですぐに泣き出しました。彼女の机には前から2人のラブラブ写真が飾られていたのですが、それを手に取っては嗚咽を漏らす姿がとても辛く、見ていられませんでした。
僕が戦いで潔く散ったら、ルナは泣いてくれるでしょうか。その逆、つまりルナが死んだ時のことなどは考えたくもありません。
情報収集班は4人で活動を続けていました。情報収集部が広々として感じられました。

戦闘を避けながらも、いざというときの為に「山猫」はあれこれ船中を改装して回りました。
大きな変化はやはり「203㎜連装砲」です。「山猫」はたった1人で2基もある巨大な「連装砲」を大胆に改修してしまいました。
問題だった砲室の強度も改善され、新たに「砲塔」というものが加わって砲室は以前より高い位置に据え付けられました。更に大砲自体更新され、203㎜だった口径が279㎜にまで大きくなりました。大砲に角度をつけられるようになったことで射程と精度も向上し、最終的には「279㎜連装砲」が完成しました。驚くべき進化でしたが、果たして出番はあるのでしょうか。
もう1つ印象に残ったのが、「山猫」が腰に差した新しい剣です。あの鞘には見覚えがありました。フランベルク――「虎」が生前愛用していたものでした。


することもなく寝室の窓から外を眺めていると、段々見慣れた景色が増えてきました。幼い時にマルクル大佐に連れられて観光した繁華街や、海軍の皆で買い物しに行った港町など、海軍に関する思い出が次々に浮かんできます。
左の頬に手をやると、鈍い痛みが走りました。避けられなかった海賊との戦いで、僕は左顔面に斬り傷を負いました。傷痕は残りましたが致命傷には至りませんでした。それなのに、ルナは大泣きしながら僕にキスしてくれました。思い出すだけで愛しさが込み上げてきますが、人前で堂々とされたので少し恥ずかしくもありました。
まもなく、海軍本部への突撃です。
マルクル大佐への手紙は暫く止めることにしました。セレーネが海軍本部の方から戻ってきたら、流石にまずいだろうと思いました。マルクル大佐もそれを考えてくれたようで、便りがないのは元気な証拠だからなと、少し意味を取り違えたような言葉を返してきました。不安にさせてしまっているに違いありません。
早く帰りたいようなそうでもないような、複雑な気持ちと葛藤する日々が続きました。
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