海賊船「Triple Alley号」
「山猫」を始め一味の遺体は皆丁重に葬られました。海軍に戻って頼み込み、皆も納得してくれたのです。
海が見える丘に「豹」と「山猫」の墓が作られ、他の場所に眠っている「虎」も合わせて「史上最悪の海賊 『Triple Alley号』一味 船長 『豹』、『虎』、『山猫』 ここに眠る」と記されました。ジロウタチはジャパンという国に返還されましたが、「豹」の鳥撃ち銃とスナイパーライフル、「山猫」が持っていた2本のサーベル、それに「虎」のフランベルクとピストルが墓標に立て掛けられました。それらを囲むように船員達も埋められました。仲間を救う為に2度も海軍本部に真っ正面から挑みかかった勇姿は、海軍の間でも認められた伝説となって世界中を駆け巡りました。
その伝説が語られて以降世に蔓延っていた海賊達は勢力を失い、下火になっていきました。
やがて世界は海賊ではなく海軍同士を衝突させるようになります。とある海賊団が開発した武器を甲板に据え付けて。それぞれが掲げた『正義』の元に、戦うことになるのです。
一味で唯一生き残った僕達は、それからマルクル大佐のところに会いに行きました。ルナのことを伝えるのもそうでしたが、もっと大事なことがありました。僕はある決心をしていました。
海軍を辞めることにしたのです。ルナと2人でどこか知らない町へ行って、静かに暮らそうと思ったのです。
ルナには全てを話しました。両親を殺された後で海軍に引き取られたこと、海軍の極秘任務で海賊団に入ったこと、そして「豹」を裏切ったこと。ルナは黙って聞いていました。僕が予想したように怒ることはしませんでした。
僕達は海から離れた内陸に住居を構えました。僕は町工場で働き、ルナは近くの道場で子供達に剣術を教えました。
やがてルナが身籠ると、休暇を使って僕が代わりに道場へ赴きました。
子供は2人生まれました。最初が女の子、次が男の子です。僕達は2人とも実の両親に育てられていないので少し不安でしたが、海軍を引退して近所に引っ越してきたマルクル大佐――いえ、マルクル叔父さんにも手伝ってもらうことが出来ました。
セレーネも伝書鳩としての仕事を終え、お母さんになりました。成長した若鳥達は自然に放してやりました。それを見届けた後、セレーネも静かに土に還りました。家の裏に墓を作り、そこに埋めました。子供達と作った墓標に「史上最長の伝書鳩 『Triple Alley』号 船員 セレーネ ここに眠る」と書き込みました。
仕事が休みの日には家族とマルクル叔父さんの5人で、色んな所へ遊びに行きました。
勿論、海にも行きました。
子供達は大はしゃぎで砂浜を駆け回り、マルクル叔父さんと遊んでいます。僕達夫婦は日陰で涼みつつ、そんな3人を見守っていました。
遠く水平線の彼方を、一隻の帆船が通り過ぎました。
僕の服をルナが掴み、驚いたような嬉しそうな表情で船を指差しました。彼女の言いたいことが分かりました。帆船には「203㎜連装砲」によく似た艦砲が据え付けられていたからです。
あの頃の思い出が走馬灯のように蘇りました。シゲやハルタや班の皆、皆で集まった食堂、戦闘時の高揚感、白いマスト、夜の海を照らす月、潮と火薬の香り、頬に感じた風……。
3船長の姿は特にはっきり思い出せました。何より格好いいと思わされた、敵船の上に見た六花には未だに憧れます。結局シゲとは一度も背中を預け合うことが出来ませんでした……
目頭が熱くなり、ゆっくり横切る帆船から目を逸らしました。ルナも同じように思っているようでした。
海賊や海軍と関わりがなくなった今でも、変わらず言えることがあります。
やっぱり僕は、海賊が嫌いです。
―乾の章、並びに『Triple Alley』 完―
(次ページは3船長のモデル3人への愛を語ってネタを明かして告知(?)するあとがき)