海賊船「Triple Alley号」

海賊団に入るには審査に合格しなければなりませんでした。審査は何と、3船長自らが行いました。
審査会場は船長室でした。シンプルな部屋に横長の四角いテーブルが置かれ、僕と3人の船長が向かい合う形で審査が始まりました。
「豹」は新品のような青いワイシャツでスカーフをアスコット・タイ風に巻き、緩くウェーブの掛かった金髪に合わせています。中性的で整った顔ですが、左の目から頬にかけて、生々しいケロイドの痕がありました。僕の目の前の席に座っているのが彼です。貴族出身というのも頷ける程品が良く、かなりセンスのいい人です。
「虎」は臙脂色のワイシャツを胸元まで開き、いかにも野生という感じです。肩までの黒いサラサラの髪を流し、左側の跳ねた一房はまるで犬の耳のように見えます。顔がとてもハンサムなので、何を着ても似合いそうです。しかし鼻の頭に絆創膏を貼っているのは理解出来ません。海軍の情報には高貴な良家育ちとありましたが、どことなく高慢ちきにも見える態度は確かにそうでした。椅子をそっくり返らせ、後ろ脚2本だけで支えています。
「山猫」は、一言で言うと一部以外が真っ白な人でした。オールバックの髪も肌も真っ白なのに服も真っ白で、どこからが服でどこからが肌なのか一瞬見分けがつきませんでした。瞳は燃えるような赤なので、恐らくアルビノなんでしょう。右目に黒い眼帯をしていますが、顔の右半分に斬られたような痕があり、隠せていません。真っ白な中で目立っています。パリッとしたスーツ姿で、こちらは赤いアスコット・タイをしていました。
海賊団に入りたいと言うと「豹」に理由を訊かれました。
「それは………1番の理由は、他の海賊が憎いからです」
「へえ、どうしてかな?」
「豹」は穏やかな人で、海賊の総大将とはとても思えませんでした。優しそうな風貌で、人殺しなんて出来そうにもありません。
「僕は両親を海賊に殺されました」
「おやまあ、それはお気の毒に……でも、俺達3人がやってるこれも海賊行為に値するんだよ?」
「確かに貴方達も海賊ですが、同じ海賊を狩っているじゃありませんか」
「突然ですみませんが、ウェナン、貴方はここに来る前はどこで何をしていたのですか?」
僕から見て「豹」の左横に座る「山猫」から鋭い視線が飛んできました。僕のことを明らかに疑っています。「豹」の右側に腰掛けた「虎」も同じことを考えているようです。膝の上で握った手から冷や汗が垂れ、丈の大きなパンツに小さな染みを作っていました。
ここが正念場でした。僕は精一杯「山猫」の目を見つめ、なるべく逸らさないようにしました。
「前は家からすぐの工場で作業をしていました。でも仕事内容が合わなくて、入ってすぐ止めてしまったので、憶えている人は少ないと思います。仕事を探すのも大変で、今日の食べ物さえ手に入らないような状態で、困ってて……」
声が震えないよう一所懸命抑えました。「山猫」は目を細めて僕を睨め付けました。信用できるかどうか見定めているのです。総船長と並んで実質船長と呼ばれているだけのことはあります。
が、他の2人はそれで合点がいったようでした。
「そうだったんだね。確かにここでなら食事には困らない。寝床も風呂もある。おまけに山猫は綺麗好きだから、全部ピカピカで清潔、鼠1匹いやしないよ」
「しかしお前、よくここに入ろうと思ったな。他の海賊団よりうちがマシに見えたか?」
そっくり返らせていた椅子をバーンと音を立てながら戻し、「虎」が身を乗り出してきました。興味津々という感じです。跳ねた髪がヒョコヒョコ動いていて、本物の犬耳のようです。
「はい、勿論です。町に強奪しに行くのは嫌です」
「ですが、結局私達が海賊から奪う金だって、元を辿れば町から強奪された物ですよ」
「悪いな、山猫はこういうやつなんだよ。人を疑うのが趣味でな」
「私の印象を下げるのは止めてください、虎兄さん」
「あれ、もしかしてコネコちゃんは新人に好印象持たれたかったんでちゅか?」
「馬鹿にするのも止めてください」
「山猫」と「虎」が苦笑する「豹」越しに目線を交わしました。「虎」は面白がっていますが「山猫」は睥睨しています。こんなにも人間味溢れた人物だったとは、正直意外でした。海賊は冷徹で非情な悪党だと、幼い頃からそう思っていました。
「まあまあ2人とも、新人さんの前で喧嘩しないの。ごめんね、コルーシ君。2人はいつもこうなんだ」
「あ、はい。3人とも大変仲が良いんですね」
「いえ、別に」
「そうそう、俺達は大の仲良しなんだぜ!」
どうやら「豹」と「虎」には好印象を持たれたようでした。唯一「山猫」だけは僕を終始疑っていましたが。参謀総長は手強いから注意……頭の中のメモ帳にそう書き込みました。
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