海賊船「Triple Alley号」
***
怖い夢を見た。2人が自分から離れていく夢。気味が悪いと嫌われる夢。待ってと手を伸ばして、そして目が覚めた。
いつもの船室にいた。ルークがこちらの布団に入り込んでイビキをかいていた。ノブはその向こうでスヤスヤと眠っている。まだ陽は昇っていない。
2人を起こさないようにそっと伸びをして、自分が冷や汗をかいていたことに気付いた。眼帯の下に畳んで置いてあるハンカチを取り、手早く拭った。
船が穏やかに揺れていた。今日は波も静かだ。それにしても、昨日までの嵐は大変だった。それまで新品同様だった船が大破して、4人で修理するうちに1日が終わってしまった。おかげで腹がスカスカだ。
窓から暗い空を見る。そろそろノブが起きる時間だろう。
まもなくノブがモゾモゾ動いた。目をぼんやりと開けて上体を起こした。ゆっくり顔をこちらに向けたので、目が合った。
ノブは少しの間動かなかった。急に丸い目を大きく見開き、窓を振り返った。寝坊だと思ったようだ。
「大丈夫、寝坊じゃないよ」
「えっほんとに?よかった~…」
ホッと溜め息をついた。考えていることぐらいすぐ分かる。もう長く、この2人とは一緒にいる。
ノブはルークを起こさないよう注意しながら立ち上がり、船室を出ていった。朝食の準備をしに行ったのだ。
ルークはまだ寝ていた。今では自分の布団に戻っていたが、幸せそうな顔で何やら寝言を呟いている。犬の耳にも見える跳ねた髪の毛が嬉しそうに動いている。食べ物の夢だろう。
夢。
つい先程見た夢が甦った。背筋が凍り付き、鳥肌が立った。
大丈夫、あの時2人は綺麗だと言ってくれたじゃないか。気にしすぎなだけだ。
そう言い聞かせて再びルークを見る。部屋の外でノブが動き回る音がする。耳を澄ましていると、樽を蹴飛ばして痛がる音も聞こえてきた。考え事をしていて躓いたに違いない。あいつはよくそうやって目の前が見えなくなる。結構な騒音だったが、やはりルークは起きない。笑顔で涎を垂らしながら口を動かしている。まだ食べる夢を見ているらしい。
ルークがあまりに面白いので観察していると、やがていい香りが漂ってきた。もうすぐ起こした方がいいだろう。
試しに肩を揺すってみたがまるで効かない。鼻を摘まんでみると、これは効果あった。フガフガと苦しそうに唸り、眉根を寄せている。犬耳がピンと跳ね上がり、ついに瞼が薄く開いた。
「……フガ?」
「もう朝食だよ。起きなよ」
「朝食?もう食べただろ?」
「いらないんならいいよ、僕達2人で食べちゃうから」
「あっあれは夢か!いるいる、食べます!!」
会話するうちに頭が起きたらしく、必死にすがり付いてきたのが可笑しい。嘘だと告げると今度は怒ったフリをしてそっぽを向いた。フリなのがバレバレだ。ルークは相変わらず面白い。
精一杯怒って見せる背中に愛しさが込み上げてきた。初めて出会えた大切な家族を、二度とあんな目には遭わせたくない。
ノブがドアを開けて声をかけてきた。
「ルーク、ヨシノ!ご飯出来たよー!」
***
―卯の章 完―
怖い夢を見た。2人が自分から離れていく夢。気味が悪いと嫌われる夢。待ってと手を伸ばして、そして目が覚めた。
いつもの船室にいた。ルークがこちらの布団に入り込んでイビキをかいていた。ノブはその向こうでスヤスヤと眠っている。まだ陽は昇っていない。
2人を起こさないようにそっと伸びをして、自分が冷や汗をかいていたことに気付いた。眼帯の下に畳んで置いてあるハンカチを取り、手早く拭った。
船が穏やかに揺れていた。今日は波も静かだ。それにしても、昨日までの嵐は大変だった。それまで新品同様だった船が大破して、4人で修理するうちに1日が終わってしまった。おかげで腹がスカスカだ。
窓から暗い空を見る。そろそろノブが起きる時間だろう。
まもなくノブがモゾモゾ動いた。目をぼんやりと開けて上体を起こした。ゆっくり顔をこちらに向けたので、目が合った。
ノブは少しの間動かなかった。急に丸い目を大きく見開き、窓を振り返った。寝坊だと思ったようだ。
「大丈夫、寝坊じゃないよ」
「えっほんとに?よかった~…」
ホッと溜め息をついた。考えていることぐらいすぐ分かる。もう長く、この2人とは一緒にいる。
ノブはルークを起こさないよう注意しながら立ち上がり、船室を出ていった。朝食の準備をしに行ったのだ。
ルークはまだ寝ていた。今では自分の布団に戻っていたが、幸せそうな顔で何やら寝言を呟いている。犬の耳にも見える跳ねた髪の毛が嬉しそうに動いている。食べ物の夢だろう。
夢。
つい先程見た夢が甦った。背筋が凍り付き、鳥肌が立った。
大丈夫、あの時2人は綺麗だと言ってくれたじゃないか。気にしすぎなだけだ。
そう言い聞かせて再びルークを見る。部屋の外でノブが動き回る音がする。耳を澄ましていると、樽を蹴飛ばして痛がる音も聞こえてきた。考え事をしていて躓いたに違いない。あいつはよくそうやって目の前が見えなくなる。結構な騒音だったが、やはりルークは起きない。笑顔で涎を垂らしながら口を動かしている。まだ食べる夢を見ているらしい。
ルークがあまりに面白いので観察していると、やがていい香りが漂ってきた。もうすぐ起こした方がいいだろう。
試しに肩を揺すってみたがまるで効かない。鼻を摘まんでみると、これは効果あった。フガフガと苦しそうに唸り、眉根を寄せている。犬耳がピンと跳ね上がり、ついに瞼が薄く開いた。
「……フガ?」
「もう朝食だよ。起きなよ」
「朝食?もう食べただろ?」
「いらないんならいいよ、僕達2人で食べちゃうから」
「あっあれは夢か!いるいる、食べます!!」
会話するうちに頭が起きたらしく、必死にすがり付いてきたのが可笑しい。嘘だと告げると今度は怒ったフリをしてそっぽを向いた。フリなのがバレバレだ。ルークは相変わらず面白い。
精一杯怒って見せる背中に愛しさが込み上げてきた。初めて出会えた大切な家族を、二度とあんな目には遭わせたくない。
ノブがドアを開けて声をかけてきた。
「ルーク、ヨシノ!ご飯出来たよー!」
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―卯の章 完―