お見合いだけど、恋することからはじめよう

諒くんのレクサスがうちのマンションの前に着いた。時刻はもうすぐ七時になろうかというところだった。

「……本当は、晩メシも一緒に食いたいんだけどな。今日のところは早くうちまで送り届けるよ。
水野局長……きみのお父さんの心証を悪くしたくない」

……ちょっと、がっかりだけど、仕方がないかな?うちの父こそ、せからしか(めんどくさい)人やけん。

「あの……このネックレス、ありがとうございました。着け心地もよくて、とっても気に入りました」

あたしは諒くんの目を見つめ、改めてお礼を言った。

「それはよかった……すごく似合ってるよ。
こちらこそ、スマホケース、ありがとう。
肌身離さず持つから、ななみんも肌身離さず着けていてくれよ?」

諒くんもあたしを見つめる。

あたしは、しっかりと肯いた。
こんな上品なアメシストのネックレスなら、制服を着用しなければならない会社でも、偉い方々をご案内する秘書課でも、違和感なく全然OKだ。

それに、バレンタインだからゴディバのチョコレートを贈ろうかとも思ったけれど、スマホケースを気に入ってもらえてよかった。
PORTERの鞄と同じ防水素材でつくられた、黒い手帳タイプのスマホケースは、クールなイメージの諒くんによく似合っていた。

「それから……もうちょっと頻繁に会えればさ、こんなことは決して言わないけど……」

めずらしく、諒くんが言い淀む。

「なるべく、男がいる呑み会には行かないでほしいんだ。
……会社関係は仕方ないとわかっているけどな」

さすがに諒くんは言いにくそうだ。
心なしか、耳が赤くなっている。

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