お見合いだけど、恋することからはじめよう
「ひさしぶりっ、ちなっちゃん!」
ふだん南青山にある会社までの通勤で使うPASMOでタクシー代を支払って降りたあたしは、千夏に駆け寄った。
「おっ、突然呼び出したのに、かわいい服着てるじゃん。上出来、上出来」
ファッションにうるさい千夏からお褒めにあずかる。そういう彼女はいつも完璧で、今日もそのスタイルのよさを最大限に引き出す、十センチはあるピンヒールにカシュクールのワンピを纏っていた。
「これね、この前お見合いした人との初デートで着たんだよ。あ、今夜はそれをちなっちゃんに報告しようと思って来たんだ」
……あのとき諒くんも、少しは「かわいい」と思ってくれたかなぁ?
「な、ななみん……お見合いしたの⁉︎」
千夏が涼やかな切れ長の目を真ん丸にして驚く。
「うん。うちのおとうさんの部下の人なんだけどさ」
「えっ、そいじゃあ、金融庁の人じゃんっ!
もしかして、お父さんと同じキャリア官僚っ!?」
……よくご存知で。
「……うーん、早まったかなぁ?」
急に顔色を変えて、千夏が考え込みだした。
「ちなっちゃん?」
あたしがその顔を覗き込むと、
「ま、いいや。別にまだ結婚したワケじゃないし……ななみん、店の中に入ろ!」
千夏はなにかを振り切ったように言った。